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京都の知られざる郷土料理。お茶の名産地で100年受け継がれる茶汁とは
2025.02.01
緑茶発祥の地・京都府宇治田原町で江戸時代から食べ続けられる郷土料理「茶汁」。茶摘みや畑仕事をする茶農家が、農作業のお昼ごはんに食べていたお茶でつくる簡易なお味噌汁です。代々受け継がれる郷土料理で、文化庁の「100年フード」に認定されています。
目次
1.発祥は江戸時代まで遡る!お茶のふるさとで食べ続けられる郷土料理・茶汁とは?
茶汁という食べ物を知っていますか? お椀に入ったみそ玉とみずみずしい野菜。そこにちょっと濃いめに淹れた熱々の番茶を注ぎ入れて……。香ばしい番茶の香りが広がって、食欲を刺激する「茶汁」のできあがりです。
「幼い頃は、家族の畑仕事によくくっついて行っていました。お昼の時間になると、“やちよ〜、みそ汁つくって”って呼ばれて、茶汁づくりを手伝ったんですよ」と郷土の思い出を語ってくれたのは、宇治田原町湯屋谷の地域活性化に取り組む「1738やんたん里づくり会」の副会長・浅田八千代さん。「1738」とは永谷宗円が緑茶を開発した年に由来しています。
宇治田原町湯屋谷は、1738年、当時は画期的だった緑茶の製法を開発した永谷宗円ゆかりの地であり、日本緑茶の故郷といわれる地。そんなお茶の故郷で、緑茶と同じく、江戸時代から受け継がれている郷土料理が「茶汁」です。
「畑にお弁当のほかにみそ玉を持っていってね、お昼になると小川から水を汲んできて番茶を沸かすんです。私は“やちよ、葉っぱ摘んできて”って家族に頼まれて、自生している三つ葉やせりを取ってくるのが仕事でした」
三つ葉やせりをちぎってみそ玉と一緒にお椀に入れ、沸かした番茶を注ぎ入れる。みその風味と番茶の香りが広がる思い出の味だといいます。
「もう半世紀も前の思い出ですね。家庭によって味が違うんですよ。具ににしんを入れる家があったり、最近ではインスタントラーメンを入れる人がいたり。自分が好きな具材を入れて食べていました」と教えてくれました。
茶汁の思い出話を語る「1738やんたん里づくり会」の浅田八千代さん。
京都の南部、ハートの形をした宇治田原町にある湯屋谷地区。
4つの谷からなる湯屋谷地区。霜の降りない珍しい地形や、寒暖差の大きさなどお茶の栽培に適した気候風土で、お茶栽培が盛んな地。
2.文化庁の「100年フード」に認定!伝統の味を100年先も……郷土の味を次世代へと継ぐ地域一帯となった取り組み
「1738やんたん里づくり会」では、湯屋谷を盛り上げようと、地域住民で運営する観光交流拠点「宗円交遊庵やんたん」をオープン。施設内にある「あばんずキッチン」で、茶汁を提供しています。
「“あばん”は湯屋谷の方言で“おばさん”の意味。15人ほどの地域の女性が集まって、運営しています。メニュー開発もみんなで行ない、みそから手づくりしました。ぜひ食べに来てほしいですね」
そんな地域の取り組みが認められ、2022年に文化庁の事業「100年フード」に認定されました。これは、「世代を超えて受け継がれ、長く地域で愛されてきたもの」として認められただけでなく、地域の関係者や地方自治体が100年続く食文化として継承することを宣言するもの。
「江戸時代は、みそに菜っ葉、番茶と簡素なものだったと思います。それが令和の今でも食べられている。お茶とともにある宇治田原町湯屋谷ならではですね。これから先の100年も受け継がれるように、地域のみんなで力を合せていきたいです」
◉100年フードとは?
日本の多様な食文化の継承・振興への機運を醸成するため、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を、100年続く食文化「100年フード」と名付け、継承していくことを目指す取り組み。「伝統の100年フード部門 ~江戸時代から続く郷土の料理~」「近代の100年フード部門 ~明治・大正に生み出された食文化~」「未来の100年フード部門 ~目指せ、100年!~」の3部門があり、茶汁は「伝統の100年フード部門」に認定された。京都府内では、茶汁と松花堂弁当が認定されている。
3.お茶の香りがふわり広がる。実際に茶汁を食べてみよう!
あばんずキッチンの「彩り茶汁セット」1,200円。郷土料理の茶汁は、夏と冬で具材が異なる。碾茶を砕いた抹茶のふりかけがかかったご飯や、茶殻を炊いてじゃこと合せたもの、旬の地元野菜を使った小鉢など、地元スタッフならではのアイディアが光る料理が楽しめる。
みそ、だしとなるかつお節や細切りにした昆布、三つ葉やせりをお椀に入れ、番茶を注いだものが茶汁です。「家庭によって味はさまざま」と浅田さんが話すように、具材はお好みでOK。
「あばんずキッチンで提供する茶汁は、地元の野菜を使い、甘めのみそと濃いめの番茶でいただきます」
湯屋谷でいう番茶は、摘んだ茶葉を蒸し、揉まずに乾燥させて炒る、焙じタイプのお茶。香り豊かに、色も濃いめにした熱々の番茶をかけます。
「番茶はどんな食材とも相性がいいんですよ。にんじんは宇治田原町の形にちなんでハートにしようとか、スタッフみんなで工夫しています」
即席みそ汁のようなものと茶汁を説明する浅田さんですが、食べてみれば、お茶の香りに食欲が刺激され、みその甘みとお茶の香ばしさが合さって、茶汁ならではの奥深いおいしさが楽しめます。お餅がはいった冬バージョンは食べ応えも抜群。ぜひ一度、お楽しみください。
◉お好みの具材を楽しんで!
お茶、みそに合せる基本の具材は、三つ葉などの菜っ葉。あばんずキッチンでは、夏と冬で具材を変えています。ご家庭でも楽しめるので、ぜひ参考にしてみてください。
◉夏におすすめの具材
とろとろ食感のなす、喉ごしさわやかなそうめんに、とろろ昆布、かつお節を添えて。あっさりとした味わいで、食欲が減りがちな夏でもぺろりと食べてしまう。
◉冬におすすめの具材
やわらかい大根に、ボリュームたっぷりのお餅、肉厚の椎茸に、白髪ねぎ、とろろ昆布、かつお節を添えて。具だくさんで、みそ仕立てのお雑煮を食べているかのよう。
宗円交遊庵 やんたん
【住所】京都府綴喜郡宇治田原町湯屋谷尾華21
【電話】0774-46-8864
【営業時間】10:00~16:00(11月~2月)
10:00~17:00(3月~10月)
【定休日】水曜・木曜・年末年始
【HP】 https://www.sk-yantan.com
4.まとめ
緑茶発祥の地・京都府宇治田原町で長年地域の方たちに愛され、受け継がれてきた郷土料理「茶汁」。
茶摘みや畑仕事をする茶農家が、農作業のお昼ごはんに食べていたお茶でつくる簡易なお味噌汁は、お茶のふるさとならではの味わいです。芳しいお茶の香りと、ほっとあたたまる滋味溢れるおいしさに、宇治田原町の人びとのあたたかさを感じます。