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毎日頑張るあなたへ。煎茶道の家元嗣が教える、お茶の香りと癒しの力。

2024.04.01

水口小園さんの画像

日々を忙しく過ごす中で、疲れやストレスがたまっていませんか。毎日頑張っている方におすすめしたいのが、香り高い煎茶です。煎茶道の流派の1つ、「公益財団法人煎茶道方円流(ほうえんりゅう)」(以下、「方円流」)の水口小園(みなくちしょうえん)家元嗣に煎茶の癒しの力について教えていただきました。

目次

水口小園さんと掛け軸の画像

方円流 水口小園家元嗣

1962年生まれ。薬剤師として病院勤務を経て、婚家の方円流家元のもとで修行。現在は方円流の家元嗣(次期家元を指す言葉)として活躍。

1.心の渇きを癒してくれる「煎茶道」をご存じですか?

茶托に乗った茶器の画像

お茶は茶托にのせ、お盆を用いて客の前へ。茶托に刻まれた、連なる四角と円の紋様は、方円流の心を表している。

「煎茶道」を知っていますか。茶道と聞くと、抹茶を点てる茶の湯を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実は、抹茶を嗜む「茶道」のほかに、心穏やかに煎茶をいただく「煎茶道」もあります。

茶席に茶道具を設置し、亭主(主宰者)がお茶を淹れながら茶客をもてなす煎茶道。そこには、日々の喧噪やストレスから解き放たれた自由でゆったりとした時間が流れています。

❶江戸時代に始まった煎茶道とは?

売茶翁の画像

煎茶を売り歩き、世に広めた売茶翁(ばいさおう)。江戸時代を代表する画家・伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)をはじめ、当時の文化人に多大な影響を与えた。

煎茶を飲む風習は、江戸時代初期に中国から伝えられたとされます。明(みん)から日本に渡り、京都の宇治に黄檗山萬福寺(おうばくさんまんぷくじ)を開いた隠元禅師(いんげんぜんし)らによってもたらされた煎茶が、江戸時代を通じて文人らの間に広まり、やがて一般にも普及していきました。

喫茶の風習が煎茶道へと至る契機となったのが、黄檗宗の禅僧・売茶翁(ばいさおう)です。売茶翁は茶道具を担いで京都の町をまわり、茶店を開いて市井(しせい)の人々にお茶を飲ませつつ、禅の心や人の生き方を説きました。その後、煎茶を楽しむ文化として、一定の形式や礼法に則った煎茶道が形成されていったのです。

売茶翁が説いた自由で豊かな精神は、現在の煎茶道の各流派に引き継がれています。流派の数は、全日本煎茶道連盟に所属するものだけでも30近くあり、その中の1つが、京都に家元をおく「方円流」です。

❷方円流が大切にする、おもてなしの心

急須の画像

使う茶葉を見極めて、一番おいしく味わえるようにお茶を淹れる。

お茶を通して心の癒しやおもてなしの心を伝える煎茶道の流派の1つ、方円流の水口小園家元嗣にお話を聞きました。

「方円流で大切にしているのは、互いの尊重です。正客(しょうきゃく)だけを特別扱いするのでなく、その席にいる皆さんが一緒に楽しめるように心を配ります」

というのも抹茶席の場合、最上位の席に座る正客は、経験や年齢などから最も格上の客が務め、亭主との会話をリードする役目も担います。しかし、煎茶道では正客以外の人も、亭主と自由に話をすることができます。

「煎茶道の特長は、自由で平等なところです。正客とお詰め(末客)の区別なく、五つの茶碗に均等にお茶を注ぎ、おもてなしするのです」

5つの湯呑みの画像

使う茶器はもちろん、お茶の種類も自由で決まりはありません。煎茶や玉露だけでなく、ほうじ茶や桜などの香煎、そしてなんと烏龍茶や紅茶を出すことも。煎茶だけにとらわれず、季節や相手に合せてお茶を選ぶのも、おもてなしの一つです。お茶菓子選びも柔軟で、生菓子や干菓子のほか、番茶のときは干し果物を出すこともあるのだとか。

まさに自由自在ですが、お茶の淹れ方にはこだわります。「茶葉の種類ではなく、その茶葉が一番おいしく味わえるように、心を尽くすことが大切です。同じ道具を使っても、淹れる人によって味が違うのが、煎茶のおもしろいところですね」と小園家元嗣は話します。

2.方円流の家元嗣が語る、煎茶と癒しの物語

お茶を注ぐ水口小園さんの画像

香り高い煎茶をこよなく愛する小園家元嗣。お茶には味わいを楽しむだけでなく、人の心を解きほぐしたり、幸せな記憶を呼び起こしたりする力もあると話してくださいました。

❶薬だけでは癒せない心に、煎茶の香りを

5つの湯呑みにお茶を注いで入るところの画像

急須から5つの茶碗に均等にお茶を廻し注ぐ。香りと旨みが詰まった最後の一滴まで注ぎ切ることを欠かさない。

「家元」ときくと、代々続く固い家柄をイメージされるかもしれません。ですが、小園家元嗣は、もともとは薬剤師として働いていました。

「薬剤師をしていた頃、長く入院する患者さんが多く、処方するお薬の量が増えることがしばしばありました。だから、薬に頼らない方法がないものかと考えるようになったのです。あるとき、受付にヒノキの香りの石けんを置いたら、患者さんたちが『いい香りだね』と寄って来られ、心が和らいだ様子でした。それを見て、香りなどの薬以外のものが癒しとなり、人を治すこともあると気づいたのです。お茶にも癒し効果があり、それに通じるものがあります」

こうして小園家元嗣は、人を癒すことのできる煎茶の道に進もうと決めました。

❷煎茶を味わうことで蘇る、幸せな記憶

涼炉に炭を入れて湯を沸かしているところの画像

涼炉に炭を入れて湯を沸かす。清浄な空間にボーブラのお湯がシューッと沸騰する音が響く。

今では家庭でも外出先でも簡単に飲むことができる煎茶。単なる飲料としてのお茶と、“道”としてのお茶には、どのような違いがあるのでしょうか。

「煎茶道の茶席には広い空間があり、床の間があり、炭の香りがあり、人もその空間の一部となって身を置きます。一煎目を淹れて味わい、お茶菓子をいただき、二煎目を味わう。そのゆったりとした時間の流れを五感で感じつつ、初めて会った人同士、上も下もなく家族のようにおしゃべりします。この和やかな雰囲気が癒しを与えてくれるんですね」

“道”としてのお茶に心を癒す効果があることを、小園家元嗣が確信したエピソードがあります。

ある茶席に参加した男性が、お茶を味わったあと、涙を流されました。理由をたずねると、亡くなった奥様のお茶を思い出し、思わず涙があふれたのだそうです。また、人生で苦労を重ねたある女性は、昔、豊かだった頃に家族と飲んだお茶の味を思い出して泣き出したといいます。

「茶席で心を鎮め、ゆっくりと味わうお茶は記憶につながります。お茶を口に入れることで、楽しかった記憶やうれしかった記憶が呼び覚まされるのです。相手に応じた茶器やしつらえでおもてなしをして、心の渇きを癒していただくことが“道”としてのお茶だと考えています」

❸忙しい人にこそ味わってほしい、爽やかな新茶の香り

茶道口につるされた帳の画像

茶道口につるす帳には「水は方円の器に随い人は善悪の友に依(よ)る」の文字。

5月になると、新茶が旬を迎えます。

「新茶の季節は特に心が浮き立ちます。急須から茶碗に新茶を注ぐとき、ふわりと鼻をくすぐる香りが格別ですね。爽やかで、若いワインのような青い香りが魅力的です。新茶の季節には、茶席でも必ず新茶を淹れます。季節ならではの特別な味わいですね」

煎茶道を始めて30年以上になる小園家元嗣。その経験を通じて思うのは、毎日が忙しい人ほど豊かな時間が必要なのではないかということです。

「ほんのひととき、携帯電話の電源は切って茶席に入り、お茶を味わってほしいですね。また、おいしいうちに召し上がってほしいので熱いものは熱いうちにゆっくりと。床の間には掛け軸や季節の花があり、盛物という飾りにも意味を込めて飾るので、おしゃべりの話題にしてほしいです。今の人は視覚を重視しますが、香り、音、触感、味覚と、人間の五感すべてを刺激する茶席で、豊かな時間を過ごしてください」

格式張らず、自然体で心を開き、一服する。それが煎茶をより深く味わう秘訣だと、小園家元嗣は教えてくれました。皆様もぜひ煎茶の香りに癒されてください。

3.まとめ

「煎茶道」とは、茶道の一種で、心穏やかに煎茶を味わう作法のことです。江戸時代初期に中国から伝わった煎茶を飲む風習は、文人の間に広まり、やがて煎茶道が形成されました。その一流派である方円流では、なによりも自由と平等の精神を重んじています。

方円流の水口小園家元嗣は、和やかな雰囲気の中でお茶を味わうとき、お茶の香りに癒されたり、幸せな記憶が呼び起こされたりして、日々の疲れやストレスから解放されていくのだと話してくれました。そんな団らんの場には、おいしいお茶が欠かせません。特に新茶は、格別の香りを楽しむことができます。毎日を慌ただしく過ごされている方は、新茶の香りを楽しみつつ、心を癒す豊かな時間をお過ごしください。


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