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茶器をめぐる夫婦の物語【昭和を知る文筆家の珠玉のエッセイ2本】
2026.11.01

大切な人との思い出が詰まった物や、昔から使っている道具には愛着が湧くものです。特に、身近な存在であるお茶にまつわる道具には、たくさんの記憶が宿っていることでしょう。昭和時代をよく知る文筆家がつづった、茶器をめぐる夫婦の物語を2つお届けします。
文・あさか よしこ
文筆家。秋田県生まれ。東洋大学短期大学卒業後、ライターの道へ進む。インタビュー、エッセイ、劇評、書評、映画評、ルポルタージュなど、幅広いジャンルを得意とする。好きなお茶はほうじ茶。
1.【花三島の抹茶碗】お茶漬けで偲ぶ、夫婦茶碗だったころ

母の形見分けでもらい受けたのは、三島(みしま)の抹茶碗。
三島の器は、もともと李朝時代に朝鮮半島から日本に渡ってきたものだそうです。渋い侘びを感じさせる釉薬(ゆうやく)と、特徴ある繊細な象嵌(ぞうがん)模様の中に花紋が散りばめられているこの茶碗は、特に花三島(はなみしま)と呼ばれているとのこと。それは、あでやかでいながら、恥じらうような不思議な静けさを感じさせるのです。
実は、我が家には、以前買い求めた花三島の抹茶碗がもう一客あります。ですが、生け花や茶道の師範をしていた母と違って、茶道の心得のない無粋な私は、これをお客様用のご飯茶碗として使用しておりました。
その器と、母の遺した器。偶然揃った大小二客の花三島を、夫婦のご飯茶碗として普段使いすることにしたのです。何だか風雅で、昭和気質の夫も「おっ、いいのか、この茶碗で飯を食っても!」といたく感激していました。
その夫を数年前に見送り、花三島は二客とも私のものに。普段の白ご飯のときは、小ぶりのほうの器を使い、お茶漬けのときは、夫が使っていた大ぶりの器。白いご飯に梅干しと海苔をのせ、熱々のお茶をたっぷりと注いで、いただきます。こうすると一人だけの食卓も、寂しくはありません。
「二つの器が偶然出合うだなんて、まるで夫婦のようだわ」なんて考えながら……。
2.【中国茶器】あのときの記憶が蘇ったのだと信じたい

今、私が普段使いしている急須と湯呑は、中国茶器。ずっと昔、初めて結婚式の仲人をしたときに引き出物としていただいたものです。
白地に青の繊細な模様が美しい磁器で、どうやら中国の景徳鎮(けいとくちん)なる地の、蛍手(ほたるで)という透し彫りを施した器とのこと。ですが、そういう知識も、中国茶を飲む習慣もなかった我が家では、長い間、サイドボードの“お飾り”となっていました。
しかし、あるときふと思いついて、この急須で緑茶を淹れてみたのです。注ぎ口の角度が日本の急須とは少し違うものの、何とも言えない新鮮さがあるではありませんか。以来、この茶器は我が家の大事なお茶の友となりました。
そして先日、仲人をしたそのご夫妻が、揃って古希を迎えた記念に京都を訪れ、我が家へも立ち寄ってくれたのです。私はここぞとばかり、とっておきの緑茶をこの中国茶器で淹れ、おもてなし。さりげなく、そして、ちょっと思わせぶりに。
と、「アラッ、この急須、今でも使ってくださってるの?」とうれしそうな奥様の声。
私は正直、ちょっと驚きました。実はこのところ、奥様の物忘れが増えてきているとご主人から伺っていたからです。でも、この茶器のことは覚えていてくださった……。
「懐かしいわ」と急須を撫でる奥様の姿が実に愛らしく、私はこのとき思ったのです。彼女の中に、輝くような新婚時代の記憶が暖かく蘇ったのだと。そう信じたい、と……。
3.まとめ
茶器にまつわる2組の夫婦のエッセイをお届けしましたが、いかがでしたか?物に宿った記憶は、それを大切にし続ける限り、色あせることなくずっと残るのです。お手元の茶器や道具に詰まった思い出を慈しみながら、温かいお茶を味わってみてはいかがでしょうか。
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