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「品種」を学ぶと日本茶がもっと楽しくなる!京都府茶業研究所が徹底解説
2024.06.01
お米にコシヒカリやあきたこまちなどの品種があるように、日本茶にも「やぶきた」や「さえみどり」などの品種があることをご存じでしょうか。学ぶと奥が深いお茶の品種について、京都府茶業研究所の専門家に教えてもらいました。
目次
1.お茶の品種ってなに? 京都のお茶博士が解説します
古くから日本茶の産地として知られる宇治市の山間部に、大正8年に設立されたのが京都府茶業研究所です。宇治茶の研究を幅広く行なっていて、製茶技術の改良や新品種の育成と栽培技術の開発、茶葉の品質向上や機能性の研究などに取り組んでいます。そんな茶業研究所のお茶博士こと、主任研究員の大串卓史さんを訪ねて「日本茶の品種」について解説してもらいました。
普段日本茶を飲むときに、煎茶・玉露・かぶせ茶・ほうじ茶など、お茶の育成方法や製法で好みのお茶を選ぶことはあっても、「品種」を気にかける人はあまりいないかもしれません。けれども「日本茶」とひと口にいっても、その味わいや香り、色は品種によって大きく異なります。品種育成に関わってきた大串さんによると、現在、日本茶の品種は約130種以上にのぼるといいます。
2.お茶のおいしさを安定させるための「品種育成」
「簡単にいうと、お茶の木に名前が付いていないものが在来実生種(ざいらいみしょうしゅ)、『やぶきた』などの名前のあるものが品種です。昭和20年頃に技術開発が進み、それまでお茶の栽培といえば在来実生種が一般的だったのが、挿し木で育てる手法が知られるようになって、品種の普及が活発になりました」
在来実生とは、お茶の種を土に撒いて育成する方法です。種から育てると同じ植物でも葉の形状や味わいが異なります。人間の兄弟の顔が一緒ではないのと同じです。また、種から摘採できるまでに約5年ほどかかります。
それに対して品種は、すぐれた品質の茶木の一番茶を摘まずに育てて枝を切り、それを土に植えて育成します。挿し木はいわばクローン。そのため、すぐれた品質のお茶の木と同じ品質を保証することができます。また約9ヵ月ほどで苗になります。
「品種育成が始まった頃は、在来実生種の中から優良なお茶を選んで増やしていましたが、今は品種同士を掛け合せて育てることが主流になりました」
掛け合せは、すぐれた品種の交配によって行ないます。母となる品種の花の蕾(つぼみ)をメシベだけにし、そこに父となる品種の花粉をつけて袋にいれ受粉させます。こうして誕生した種を育てて新しい品種が生まれます。
3.個性が際立つ大注目の品種はこの9つ!
お茶の品種は現在130種以上もあり、今も新しいお茶が誕生し続けています。その中から代表的なものや希少な品種をご紹介!個性豊かな品種について学んでいきましょう。
❶「やぶきた」日本茶といえば、この品種!
国内全茶園面積の約7割を占める、日本茶の代表的な品種が「やぶきた」です。静岡県の杉山彦三郎が竹やぶを開墾(かいこん)した畑にお茶の種を植え育てた在来実生種から選び抜いた品種で、竹やぶの北側にあったことが名前の由来となっています。
耐寒性の強さ、根付きのよさ、どんな土壌でも対応できる適応性の高さなど、育てやすさがピカイチ。そのため、1953年に農林水産省の登録品種になると瞬く間に全国に普及して、お茶界の天下を統一した品種です。味わいはすっきりで香りが長続きしてバランスも良好。非の打ち所がないスーパー品種です!
❷「あさつゆ」とろりとした甘みが魅力
「天然玉露」の別名がある「あさつゆ」は、宇治出身の在来実生種の中から選抜された品種です。1940年から研究が進められて、1953年、農水省に品種2号として登録されました。玉露風のとろりと甘みのある味わいと色のよさから「あさつゆ(朝露)」と命名されました。
霜に弱く収穫できる量に限りがありますが、摘採期が早めで葉の数は多め。小さくて丸みのある葉をしています。緑が鮮やかで渋みが少なく、旨みが強い個性的な品種なので他のお茶と合せるブレンド素材として重宝されています。
❸「さえみどり」緑鮮やかな美しいお茶!
天下一の品種やぶきたと天然玉露あさつゆというゴールデンコンビを両親に持ち、1990年に誕生したのが「さえみどり」です。両親のいいところを受け継いで生まれた、いわばお茶業界のプリンスといえます。
摘採期がやぶきたより約1週間ほど早いので、新茶の頃の繁忙期に収穫のピークをずらしやすい点から、農家さん思いのやさしい品種でもあります。
品質にもすぐれていて、煎茶に最適ながら玉露に使われることもあります。また収穫量も多いため、農家さんも大喜びの品種。上品な旨みと冴えた緑色で多くの人を魅了する、まさに王子様です。
❹「ごこう」余韻を残す上品な香り
1954年に京都府奨励品種となった「ごこう」は、京都府宇治市の在来茶園から茶業研究所が選び抜いた品種です。
その名前の由来は、抹香(まっこう)を思わせる上品で格式高い香りが、お釈迦様の光輝く「後光」を想起させるからという説があります。余韻が長く続き、鼻に抜けるような個性的な香りをしています。
宇治茶特有のとろみがあります。元々、玉露用として育成されたことから旨みと甘みが強い品種なので、抹茶やかぶせ茶にも適しています。摘採期間が短いためとても希少な品種です。
❺「さみどり」由緒正しい、生粋の京都生まれ!
昭和初期、宇治市の茶農家の茶園から選抜され、茶業研究所にて試験を経て1954年に京都府奨励品種となった、正真正銘の京都生まれの宇治茶品種です。とても育てやすい品種で、木がまっすぐ伸びる特長があります。また、やわらかい茎と葉なので手摘みにも機械摘みにも向いていて、茶農家さんに好まれています。
香りは爽やかな柑橘のよう。煎茶だけでなく玉露にも抹茶にしてもおいしい、オールマイティーな品種です。
❻「べにふうき」紅茶にしても美味!
日本で最初の紅茶用品種である品種登録第一号の「べにほまれ」と、海外紅茶のダージリンから導入した種「枕Cd86」を親に持ちます。長年の試行錯誤の末、1993年に品種登録されました。
茶葉を完全に発酵させて紅茶に仕上げれば、濃紅色の水色でやや渋みがあるものの、西洋紅茶にも引けをとらない味わいと香りが生まれます。茶葉を発酵させずに緑茶に仕上げると、メチル化カテキンを含む花粉対策に注目のお茶になります。ちなみにメチル化カテキンは、紅茶に仕上げた場合は酸化酵素の働きにより消失します。
❼「つゆひかり」わずか0.7%の希少品種
やぶきた、あさつゆが自然の育成から発見されたいわば品種第一世代なのに対し「つゆひかり」は、すぐれた品種同士を掛け合せて誕生した品種です。母方の祖母がスーパー品種やぶきた、父に天然玉露のあさつゆを持つ「つゆひかり」は、2000年に品種登録されました。父親に似た甘みを引き継いでいることから「つゆ」の二文字を受け継ぎつつ、「茶業の未来に光明を与える」という意味を込めて名付けられました。
爽やかな香りと濃厚な旨み、綺麗な明るい緑色の水色を併せ持ち、かぶせ茶にするとお茶の特長がさらに際立ちます。現在は全国のお茶栽培面積の約0.7%しかつくられていませんが、今後に期待の品種です。
❽「鳳春」宇治の世界遺産にちなんで名付けられました
京都府生まれの「さみどり」の自然交雑実生種から選抜・育成したのが「鳳春」。昭和中期から選抜を続け、ついに2006年に品種登録されました。世界遺産・平等院鳳凰堂から名前をとった、期待の宇治品種です。
❾「展茗(てんみょう)」次世代を担う期待の品種!
鳳春と同じく、「さみどり」の自然交雑実生種から生まれた品種「展茗」は、鮮緑色で覆い香が特長的です。品質がすぐれていて、いずれはやぶきたに取って代わると噂されるほどオーラのある期待の新星です。
4.品種育成がお茶の未来を支えていきます
大串さんをはじめとする京都府茶業研究所では現在、京都・宇治の品種の育成に力を入れています。
「元々、京都府の在来種のお茶は玉露や碾茶(抹茶になるお茶)に向いており、旨みと甘みがすぐれています。土地の持つ力は非常に強いので、宇治茶本来の旨みを活かした品種にはまだまだ大きな可能性があると確信しているんです」
宇治の在来種から生まれた品種といえば「ごこう」や「さみどり」が挙げられます。これらのすぐれた品質を受け継いだ新たな品種が2006年に登録されました。「鳳春」と「展茗」は新芽の美しいお茶で、宇治茶特有の甘みが感じられます。
「新しい品種をつくることで、お茶のおいしさ、味の広がり、楽しみ方を広げて、さまざまなニーズに応えられるようにしたいと思います。また、品種の育成は、自然の中にあっては配合する可能性が低いものも、人の手を入れることで実現することができます。言い換えれば、品種の育成とは、植物の進化の手助けとも言えるでしょう」
お茶のふるさと・京都から、今後の日本茶の未来を担う次世代の新しい品種が次々と育っていきます。これからも最新の品種の動向から目が離せません!
5.まとめ
日本茶は「品種」によって香りや味わいが大きく異なることを、専門家である茶業研究所の大串主任研究員に解説してもらいました。今後お茶を飲む際には、「品種」を意識することで、お茶のおいしさや香りの違いを今まで以上に実感できるようになることでしょう。また、自分好みのお茶を探す際にも「品種」に注目してみてください。品種について学ぶことで、理想のお茶に出合えるはずです。