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京料理を季節の言葉と器で味わう【冬】現代の名工が伝えるもてなしの技

2023.11.01

 
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松下秀夫先生の画像

現代の名工・京料理人の松下秀夫先生による京料理の技を次世代に伝えます。京料理は季節感が大切です。そこで松下先生は、季語と器で季節感を表現します。人が集まる年末年始、おせち料理やおもてなし料理に、京料理のおもてなしの心を取り入れてみませんか。

目次

教えてくれる料理人 松下秀夫

京都の老舗懐石料理店「ちもと」にて勤務後、学校法人大和学園において京料理人教師として活躍。令和3年度「京都府の現代の名工」に選ばれる。京料理の技とおもてなしの心を次世代に伝えるため、多岐に渡り活動している。

1.京料理は感性で味わうー大切な2つの要素とは?

四季の画像

和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて以降、世界中で注目を集めています。中でも京料理は、「だし」を基本とする伝統的な技に裏付けられた調理法でつくられる料理を、器に盛り付け、配膳し、しつらえの中でもてなす伝統文化に根ざしたものです。

京料理の技や文化を次世代に伝える料理人・松下秀夫先生が大切にしていることをお教えします。

季節感

京料理で大切なことのひとつは「季節感」です。平安時代より四季の美しさで人々を魅了してきた京都。そこで育まれた京料理には、四季があります。春の筍、夏の鱧、秋の栗、冬の根菜など、彩りが美しく、旬を迎えた食材を使うことで、日本の春夏秋冬が感じられる季節のエッセンスが取り入れられているのです。

もうひとつ大切なのは「器」です。器は客人をもてなす心を大切にする京料理で、重要な役割を果たします。京料理人は料理に合せ、季節を踏まえて器を選びます。旬の食材の大きさとのバランスや色彩、質感などを活かすように料理を器に盛り付け、お客様をもてなすのです。

2.【12月】年の瀬と新年への期待感 旬の魚の揚げ物で表現

冬真っ只中の12月。冬の寂しさと新年への期待をお料理で表現しました。人の集まる季節にぜひ参考にしてください。

❶季節の言葉:凩(こがらし)

凩の画像

「凩」とは冬の季語です。秋の終わりから冬のはじめにかけて強く吹く、北寄りの冷たい風のことを指します。乾いた木の葉を吹き落とし、木を枯らす風という意味もあることから、「木枯らし」と書くことも。

❷器:凹凸が印象的な角皿

凹凸が印象的な角皿

松下先生は凩という言葉から料理をイメージし、器を選びます。松下先生が選んだお皿は、まるで彫刻刀で彫り跡をつけたかのような凹凸が印象的な長方形のお皿です。

「本来、京料理でここまで華やかなお皿を使うことはありませんが、この凹凸が、木の葉を舞わせる凩の動きを表しているようにも見えて、おもしろいですね」

❸素材:甘鯛(ぐじ)と京野菜で色目をおさえて

甘鯛と京野菜の画像

【角皿の中身】甘鯛・鱈・海老芋・牛蒡・人参・蓮根・三つ葉・さつま芋・レモン

「凩が吹く頃は、『ぐじ』が旬を迎え、また根菜類もおいしくなる季節です。ぐじや根菜類を使った揚げ物で、冬枯れの情景を表現します」

ぐじとは甘鯛のことで、京都では高級食材とされています。松下先生はその他に、鱈や京都の伝統野菜である海老芋をはじめ、さつま芋、牛蒡、蓮根といった根菜類を選びます。

海老芋の皮むきの画像

海老芋は仕上がりが美しくなるよう、側面の皮を剥きながら切って六角形にする。

❹料理:初冬の空揚げ(しょとうのからあげ)

初冬の空揚げの画像

「凩の季節は情景に色が少なくなりますから、お料理もできるだけ色目を抑えて仕上げていきます。揚げ物は薄衣を付けることで、くすんだ色に仕上がります。甘鯛は松笠揚げにしましょう」

旨みののった甘鯛の切り身に米粉をつけ、からりと揚げていくと、鱗がまるで松の笠のように美しく立っていきます。

海老芋、さつま芋、蓮根などの根菜類は素材の旨みを活かすために、シンプルに素揚げにしていきます。最後に人参と三つ葉をかき揚げにしたら、料理が出揃いました。

「平皿に盛るときは、向かって右側にメインのものを、真ん中には色目が明るいものを配置します」

年の暮れの哀愁が漂いつつも、新たな年への期待をも感じさせる、京料理の技巧を凝らした盛り合わせが完成しました。

3.【1月】鮮やかな赤色の椀で新年を表す

1月、新しい年の訪れです。晴れやかな気分と肌寒さが残り、雪がちらつく情景を料理で表現しました。

❶季節の言葉:春寒(はるさむ)

春寒の画像

「春寒」という季語をご存知ですか?春寒は、春らしさを感じる気候になってもなお、寒さが残る様子を表す季語です。「余寒」と同義ですが、語感や情感の上で微妙な違いがあり、春寒はより春への思い入れが強い季語です。

❷器:日の出を思わせる漆椀

日の出を思わせる漆椀の画像

松下先生が1月のお料理を盛り付けるのに選んだ器は、漆椀です。漆は京都の伝統工芸の一つで、漆器は昔からお正月やお祝いの席など、ハレの日に欠かせない器です。松下先生が選んだ漆椀は、まるで日の出を思わせる鮮やかな赤色が目を引きます。

「新年らしさを表すにはぴったりの、おめでたい、華やかな椀ですね」

❸鯛や筍は祝の膳に欠かせない

季節の食材の画像

【椀の中身】半殺し頭芋饅頭・道明寺薄葛汁・塩焼きほぐし鯛・のし京人参・小梅干し・霜柱小蕪・早生筍・春菊・翁昆布

「季語が春寒なので、今回のお料理は寒さという部分に焦点を当てます。さらに、1月らしい雰囲気も同時に出します。食材は春らしく、旬のものをふんだんに使います」

松下先生が選んだ食材は、お正月や季節の節句などの祝膳によく登場する鯛や筍に、旬を迎えた蕪、春菊、頭芋(かしらいも)です。1月らしい食材を使って、寒さが残る情景をお料理で表現していきます。

出汁をとる画像

焼き鯛と昆布をじっくりと煮詰めて出汁を取ったあと、葛を加えてあんかけに。

❹料理:春寒汁(しゅんかんじる) 薄葛みぞれ仕立て

春寒汁薄葛みぞれ仕立ての画像

春寒という季語を表現するために、松下先生が仕上げた料理は汁物です。

頭芋饅頭と焼き鯛、京人参の上に梅干しを重ね、日の出を表現。その周りには春菊や筍を置いて彩りを加えます。さらに、蕪で霜を、パラパラと散らした道明寺粉で名残雪を表します。

最後に、全体にゆっくりとあんを回しがけすれば、できあがりです。

ひんやりと空気が冷えた朝、ふと目を覚ますと外に広がるのは、地表に溶けずに残った雪や、うっすらとおりた霜。そんな様子を眺めながら、ふと待ち遠しく思う、あたたかな春の到来。叙情的なひと品が完成しました。

4.【2月】春の香りただよう梅料理で節分を

梅の花が咲き、春の訪れが待ち遠しい2月。節分をイメージしたお料理を松下先生がつくります。

❶季節の言葉:東風(こち)

東風の画像

「東風」は、冬の季節風が終わり、季節の変わり目に東から吹いてくる風を意味する季語です。
2月はまだ寒さが厳しい季節ですが、暦の上では春が始まります。立春を新年とすると、前日の節分は大晦日にあたります。節分は「季節の分かれ目」と考えられ、この日を過ぎると春が始まるという意味があります。

❷器:淡い桃色が春を呼ぶ細長いお皿

淡い桃色の梅模様がある細長いお皿

松下先生が季節の変わり目である節分をイメージしたお料理を盛り付けるのに選んだ器は、少し湾曲した細長い形の器。上品な淡い桃色で、まるで春の到来を待ちわびているかのようです。

「器をよく見ると梅の模様があしらわれていて、2月にぴったりです」

❸素材:香りのよい梅と柚子に旬の鱈を用意

季節の食材の画像

【皿の中身】鱈切り身・あおさ・みりん搾り粕・梅肉・柚子粉・卵白・片栗粉・茗荷花甘酢漬け・はじかみ甘酢漬け・こごみ浸し

松下先生は東風という季語から、風の表現として香りを連想します。梅や柚子、あおさといった風味豊かな食材を使って、風が吹いたときに鼻をかすめ、ふわっと感じる香りを表現していくのです。

さらに冬に旬を迎え、脂がよくのった鱈も素材に用意すると、松下先生は調理に取り掛かります。

鱈の上に泡立てて梅肉を混ぜた卵白をのせた画像

鱈の上に、泡立てて梅肉を混ぜた卵白をのせて、赤鬼を表現。

❹料理:赤黄青の鬼を表現した鱈の彩り焼き

鱈の彩り焼きの画像

松下先生は東風を表現するために、香り豊かなお料理の調理を始めます。

塩をかけた鱈をみりんの搾り粕に漬け込んで鱈の香りを引き立たせたあと、グリルで焼いていきます。その間に卵白を泡立て、梅肉と柚子粉、あおさを混ぜ、焼きあがった鱈の上に乗せます。そして弱火で再度じっくりと焼き上げ、仕上げに茗荷やはじかみ、こごみを添えれば、できあがりです。

「鱈は、それぞれ赤鬼、黄鬼、青鬼を表し、節分らしくしました。はじかみは鬼が持つ金棒をイメージしています」

まだ底冷えが続く中、次の季節を知らせるかのように頬をなでる風とあとに残る春への期待を、梅や柚子などの爽やかな香りで表現しました。

5.まとめ

冬は年の瀬の哀愁から新たな年を迎えるよろこび、待ち遠しいあたたかな春への期待感など、季節のうつろいを感じやすい時期です。

京料理に大切な2つの要素は「季節感」と「器」で、旬の食材を使って季節のエッセンスを取り入れ、料理に合せ、季節を踏まえて器を選びます。

京料理人・松下秀夫先生は、そんな冬から春にかけての季節の移り変わりを、季語から料理を連想し、旬の食材を使って調理し、季節を踏まえて選んだ器に盛り付けて、見事に表現しました。

年末年始、人が集まる季節に、京料理の技を用いて、お客様をおもてなししてはいかがでしょうか。


  

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