東洋医学に学ぶ夏の養生法。あたたかいお茶が冷えや不調によい理由とは?
2023.06.01
夏の暑さに冷たい飲み物や食べ物を求めてしまいがちですが、実はそれが体調不良につながることも。なんとなくの不調や夏バテ、食欲不信の原因は「冷え」にあります。夏こそあたたかいお茶がよい理由を、東洋医学の考えから教えてもらいました。今年の夏はあたたかい「お茶養生」で元気に!
目次
教えてくれた人 鋤柄誉啓先生
すきから たかあき●愛知県出身。明治鍼灸大学を卒業後、京都市内の鍼灸院勤務を経て2013年にお灸治療専門サロン「新町 お灸堂」を開院。2021年に五条に移転。講演会や漫画の監修など、さまざまな方法でお灸文化を発信している。
1.「なんとなく」の不調は、実は夏の対策がカナメ!
今年も暑い夏がやってきました。活発なイメージのある季節ですが、実は夏になんとなく不調を感じる人が多いことをご存知でしょうか。夏には、養生が必要な理由があるのです。
「未病」の段階で改善することが大切
東洋医学では「未病(みびょう)」という、健康から病気にむかっている状態を意味する言葉があります。病気になってしまってからでは治療は大変ですが、その手前の「なんとなく」の不調を改善させることが大切です。そのためには、一年の中でも、もっとも夏の対策が必要だと教えてくれたのは、京都でお灸サロンを開いている、東洋医学の専門家「お灸堂」の鋤柄誉啓(すきからたかあき)先生です。
「東洋医学の考え方で、天人合一(てんじんごういつ)思想というものがあります。木や花は、あたたかい季節は活動的で、寒い季節はエネルギーを蓄えます。そうした自然の摂理は人間も自然の木や花も同じなのです」
木や花が季節に合せて姿を変えるように、人間のからだも自然の移り変わりに合せて、衣類や食べ物、生活のあり方を見直して変えていくのが必要だそうです。
天人合一思想(てんじんごういつしそう)とは
天人合一思想とは、人と自然との関係を表す考え方です。東洋医学において、人体の機能と天地・自然は相応している、一体であるとします。例えば、春になると木は葉を生い茂らせ花を咲かせる活動期。冬になると葉を落として活動を低下させエネルギーを蓄える時期。人間のからだも同じで、活動期とエネルギーを蓄える時期があると考えられています。
気血水(きけつすい)とは
もうひとつ、夏の養生について考えるにあたり「気血水(きけつすい)」という東洋医学の言葉があります。「気」「血」「水」は、健康な体を構成する3つの要素であり、バランスが取れていることが大切です。
「気」は目には見えない生命のエネルギーのことです。「元気」の気、「気力」の気であり、人の原動力。「血」は全身を巡ってさまざまな栄養を届けます。「水」は血液以外の体液全般。からだを潤し、余分な熱を冷ます機能もあります。これら3つが互いに影響し合い、バランスよくあることで健康を保つことができるのです。
2.夏バテ、食欲不信…原因は「冷え」!?
夏の不調といえば、暑さからくる夏バテ、食欲がなくなったり、吐き気や下痢をもよおしたりといった症状が挙げられますが、これらはすべて「冷え」が関係していると鋤柄先生は言います。
「“冷え”と聞くと、冬の時期の冷え性を想像する方も多いですが、夏のからだは冷えることしかありません。というのも、気温や体温が上昇し、暑くて汗をかきますよね。からだは汗をかくことで熱を放出して冷まそうとするのです。それ自体はとてもよいのですが、からだの機能として冷ましているところに、強制的に冷たい飲み物や食べ物、クーラーなどの冷房で必要以上に冷やしてしまうのがよくありません。 とはいえ、クーラーを我慢して熱中症になるトラブルも多いです。快適に過ごすために、適度になるように注意しながら冷房を使用することが大事です」
「冷え」は万病の元。気や血のめぐりが悪くなり、病気や不調につながります。また、冬に冷え性に悩む人は、夏の疲れや不調を引きずっている可能性があると鋤柄先生。
「一年の気の流れは、夏がもっとも活動的で冬に落ち込みます。なので、夏に気のめぐりが滞ると、次の季節にも引きずってしまいがちです。秋に感じる暮らしの不調は、その影響が出ていると考えられます」
3.江戸時代の名著『養生訓』にも記された夏の保養の大切さ
江戸時代の儒学者・貝原益軒(かいばらえきけん)による健康・長寿を保つための心構えを記したベストセラー『養生訓』をご存じでしょうか。
『養生訓』には「四時(しじ)、の内、夏月、尤(もっと)も保養すべし」とあります。夏は「霍乱(かくらん)・中暑(ちゅうしょ)・傷食(しょうしょく)・泄瀉(せっしゃ)・瘧痢(ぎゃくり)の病。おこりやすし。(中略)夏月、此病おこれば、元気へりて大に労す。六・七月の酷暑の時は、極寒の時より元気へりやすく保養すべし」とあります。
霍乱は嘔吐や下痢、今でいう急性腸炎、中暑は夏バテ、泄瀉とは下痢を意味し、今日にも通じる症状なのがわかります。
「夏の養生は、必要以上に冷ますことを避け、あたたまっている自然のリズムに合せて、人のからだも適度にあたためてあげることが大切です」
そこで鋤柄先生がおすすめするのが、「お茶養生」です。
4.養生とは? 夏こそあたたかいお茶で「お茶養生」を始めよう!
いったい「お茶養生」とはどういうことでしょう。まず「養生」とは、その字のごとく生命を養うことを意味します。
「生命はいつか必ず終わりがきます。生命の長さは鍛えたり努力したりしてもどうにもなりません。そう考えると、人生は『常に右肩下がり』といえますね。ですが、その下り坂の角度を、病気をして急激に険しくするのではなく、緩やかな角度でいられるように養うことを心がけたいですね。」
つまり、暑い夏にあたたかい日本茶を飲むことは養生になるのです。貝原益軒の『養生訓』にも、「温かなる物を食ひて、脾胃(ひい)をあたたむべし。冷水を飲むべからず」と記されています。
「“あたたかい”というのは、約37度ほどの人肌以上の温度のことを指します。ほどよい温度の日本茶をイメージしてください。
夏は暑さから、ついつい冷たい物を欲してしまいがちですが、胃は内容物を消化するのに、まず体内で人肌程度にあたためてから消化活動を行ないます。冷たい物だと胃の中であたためるのに時間と体力を消費して弱ってしまうのです」
もちろん夏は汗をかいて水分を失っているので、意識して水分補給をすることは大切です。ただ、その温度にも注目するべきだと鋤柄先生は言います。
熱を発散して冷えているからだで冷たい物を摂取するのは、胃への負担になり不調につながります。あたたかいお茶で胃への負担を軽減してあげることが大切です。
5.お茶養生でほっとひと息。これがストレス発散に!
東洋医学では、病気の原因には内因(ストレス)・外因(気候や気温などの環境)・不内外因(生活習慣)の3つがあると考えられています。そうした原因を取り除き労(ねぎら)うことが大切です。
鋤柄先生はSNSで多くの養生方法を提案・発信しています。それらの方法はとてもシンプル。例えば、お風呂に浸かる、靴下を履く、といった一見、「当たり前」のことを意識し、毎日の生活や暮らしの中で無理をしないことが大事だと教えてくれました。
「人間のからだと心はシンプルなものです。過剰なまでの刺激を避けて、肩の力が抜けるような素朴でマイルドな生活習慣を、暮らしに取り入れてあげましょう」
からだは心の容れ物。気分がすぐれないのではなく体調が悪いのかもしれませんし、からだをメンテナンスすれば気分が晴れやかになることもあると言います。
ちなみに、鋤柄先生は日頃から食後にあたたかいほうじ茶を愛飲しています。日本茶の飾らない素朴さがよいとか。
「素朴であることは体調管理において大切なことです。毎日ごちそうだと胃腸がつかれてしまうように、ハレとケでいうところのケを意識して、大切にしていくのも立派な養生です」
今の世の中はさまざまな情報が飛び交い、スピードが早くて疲れを感じる方も多いはず。緊張する機会が多い世相だからこそ、生活の刺激物を取り除くために、お茶が有効となります。
「あたたかいお茶を飲むと、自然とほっと息が出ますよね。東洋医学では、ストレスが溜まると愚痴やため息が出やすくなるといわれています。胸に詰まったものを吐き出してあげ、吐いた分だけ新しい空気が入るということです。まさに“お茶養生”ですね」
あたたかいお茶でからだを冷やさず、ほっとひと息ついてリラックスすることで、からだと心を養ってあげることができます。今年の夏は、東洋医学の考えに習ってあたたかいお茶で健やかに過ごす「お茶養生」をしてみませんか。
6.まとめ
多くの人が感じている夏の不調。その原因は「冷え」にあります。冷たい飲み物や冷房で冷えすぎたからだは不調のもと。東洋医学では、人のからだと自然のめぐりは同じと考えられています。江戸時代のベストセラー『養生訓』にも、夏の保養の大切が記されています。あたたかいお茶で水分を補給しつつ、からだを労ってあげる「お茶養生」がおすすめです。夏の冷え対策に、あたたかい日本茶で元気にお過ごしください。