あんこライター激推しの秋のお菓子3選|京都の行事と楽しむ和菓子
2024.09.01
あんこをこよなく愛し、関西を中心にTV出演や執筆などでひっぱりだこの“あんこライター”、かがたにのりこさん。今回は9〜11月に食べたい伝統的な和菓子について、エッセイを書き下ろしてもらいました。紅葉狩りのおともやお土産に、ぜひお楽しみください。
目次
1.〈9月〉十五夜のお月見に欠かせない「月見団子」
日本の秋の風物詩・お月見。中秋の名月の夜、夜空に浮かぶ美しい月を眺めながら食べる月見団子を楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。
和菓子に詳しいかがたにさんに、月見団子について教えてもらいました。
■知っていました? 月見団子の形や色は地域で異なる!
まもなく「中秋の名月」ですね。旧暦の8月15日に行なわれていたお月見は、平安時代に唐から伝わった「中秋節」という観月の宴が始まり。貴族たちは空気が澄み、もっとも月が美しいとされるこの夜に月を愛で、収穫時期を迎える里芋やサツマイモを供えて五穀豊穣を祈りました。
十五夜の別名「芋名月」もこの行事に由来します。江戸時代になると庶民にもお月見の文化が広まり、米の豊作を祈って月見団子が供えられるようになったそうです。
実は月見団子の形や色は地域によってさまざま。関西では、里芋のような雫型の団子にあんこが巻かれたものがお馴染みですが、関東では小さな丸い団子が十五夜にちなみ15個積み上げられたものが親しまれています。
静岡では中央が“おへそ”のように窪んだ白い団子、名古屋では3色のもの、中国四国地方では串に刺さったもの、沖縄では塩茹でされた小豆がびっしりと張り付いた「フチャギ」と呼ばれる団子をお供えするのが習わしです。
■月見団子は盗み食いしてもよいらしい!?
お供え物に手を付けた子どもは普通なら怒られてしまいますが、月見団子は別。江戸時代には、「お月見泥棒」と呼ばれる“盗み食い”の風習があったそうです。
子どもは月からの使者とみなされ、盗まれた家でも、「お供え物がなくなるほうが縁起もよく、豊作になる」と、喜んでいたようです。今でも、福島や茨城、群馬、愛知、大阪、三重、和歌山、宮崎などの一部の地域ではこの風習が残っているのだとか。
関西の月見団子は大きめ。かわいい月の使者さんが慌てて団子を喉に詰まらせないよう、お茶も一緒に用意してあげたほうがいいかもしれませんね。
2.〈10月〉これぞ秋の甘味!「栗蒸し羊羹」
羊羹は、主に小豆、砂糖、寒天からつくられますが、蒸し羊羹はこしあんに小麦粉、葛粉または片栗粉などを混ぜ合せてつくります。そのため、もちもちとした食感が特長です。
栗蒸し羊羹は栗が加わることで、さらに豊かな味わいになり、秋のお茶うけに楽しみにしている人も多い人気の羊羹です。部類のあんこ好き、かがたにさんの栗蒸し羊羹への思いとは?
■竹皮の香りごと楽しむ、ご馳走甘味
原則、栗蒸し羊羹には栗がゴロゴロ入っているのが望ましい…!むっちりと弾力のある蒸し羊羹とほくほくとした旬の味覚の競演は、暑さのために衰えていた食欲が過ごしやすさとともに戻ってくる「秋渇き」の今にぴったりのお茶うけではないでしょうか。
できれば周りは竹皮で包まれたものを。研いだばかりの包丁で皮ごとズクリと切り分けます。食べる直前にくるりと剥きますと、羊羹の肌にあらわれるのは微細な筋跡。この筋から入り込んだような竹皮の移り香も目には見えないご馳走なのです。
■でっち羊羹にまつわる心温まるエピソードって?
関西では栗の有無に関わらず、蒸し羊羹のことを「でっち羊羹」とも呼びます。由来は諸説ありますが、京都・大阪などの商家へと奉公に出た幼少の者=丁稚(でっち)が、実家へ帰郷する際に土産として持ち帰り親しまれたとの説が私は好きです。
こしあんに小麦粉、葛粉または片栗粉などを混ぜ合せてつくる蒸し羊羹は、寒天を使う練り羊羹よりも安価で、給金の少ない丁稚たちにも買えるものだったのでしょう。
栗蒸し羊羹と呼ぶには栗が少ないなぁと思うものでも「でっち羊羹」と名付けられていると、妙に納得。わずかでも栗を入れ、丁稚たちに精一杯、郷里への見栄を張らせてあげようという和菓子屋さんの心遣いが感じられ、名前ひとつで心象が変わるのもこのお菓子の面白いところです。
とはいえ、新栗がこれでもかと入った贅沢な栗蒸し羊羹は今だけのお楽しみ。和菓子好きだけでなく、栗好きの方の手みやげにも喜ばれる秋の幸です。
3.〈11月〉厄よけのお餅「亥の子餅」
亥の子餅は、もともと無病息災を願って旧暦の亥の月(現在の11月)の最初の亥の日・亥の刻に食べられてきたお菓子で、イノシシの子どもをイメージしたコロンとしたかわいい形が特長です。
11月に行なわれる茶道の一大イベント「炉開き」に欠かせないお菓子でもあります。かがたにさんの亥の子餅にまつわる願望とは?
■実は炬燵に縁のあるお菓子なんです!
突然ですが炬燵はお好きですか? 私は好きです、炬燵。エアコンやヒーターにはない、ふっくらとしたぬくぬく感。とはいえ、マンション暮らしの我が家では導入しておらず、かれこれ20年はその誘惑に抗っているのですが。金沢で暮らしていた頃は、11月に入って気温が一段下がり、本格的な寒さに向かうと、「炬燵開き」が待ち遠しく思えたものです。
幼稚園から帰るやいなや炬燵に滑り込んで、祖母の隣で相撲中継を見ながらお茶を飲むのが私にとっての炬燵の原風景かもしれません。
この時期、和菓子屋さんの店頭で見かけるのが、素朴で愛らしい姿の亥の子餅。実は炬燵にとても縁のあるお菓子です。古代中国の「亥の月の最初の亥の日・亥の刻に餅をつくって食べると無病息災でいられる」との謂れに倣い、日本では平安時代に広まりました。
また、亥は陰陽五行説では水にあたり、火災の厄を逃れるといわれています。この日から火を使い始めると安全であるとされ、茶の湯の世界では炉を使い始める「炉開き」の日となり、その茶席に亥の子餅が出されることも。庶民の間では、炬燵や囲炉裏を開き、火鉢を出す日として親しまれるようになっていったのです。
■炬燵でお茶とかわいい亥の子餅を楽しもう!
いつか炬燵を手に入れたら、亥の月・亥の日に炬燵を用意し、亥の刻(夜9時から11時!)に、いろいろなお店の亥の子餅を並べて“ぬくぬく亥の子餅パーティー”をするつもりです。皆さまも冬支度を整えつつ、夜はゆっくりとお茶と亥の子餅をいただいて、残りわずかな秋の夜長を楽しまれてはいかがでしょう。
4.まとめ
あんこをこよなく愛する“あんこライター”・かがたにのりこさんの秋の和菓子のエッセイ、いかがでしたか? 十五夜のお月見には欠かせない「月見団子」、秋の味覚の栗がゴロゴロと入ったご馳走甘味「栗蒸し羊羹」、イノシシの子どもの形をした、ころんとかわいい厄よけの「亥ノ子餅」…。
季節の移ろいを感じる和菓子を用意して、お茶時間をよりいっそうお楽しみください。