トップ > 069 常滑焼の急須で淹れるお茶はおいしい!伝統を担う職人に理由を聞いた

常滑焼の急須で淹れるお茶はおいしい!伝統工芸士に秘密を聞いた

2023.10.01

常滑焼の急須の写真

左から、工程順に成形、乾燥、素焼き、釉薬をかけて本焼きした急須。

使い勝手がよく、しかもお茶がおいしく淹れられる急須があったらいいのに……。そんな急須を探している方におすすめなのが、常滑焼の急須です。おいしいお茶が淹れられる工夫について、常滑焼の急須をつくる伝統工芸士にお話を聞きました。

1.急須のふるさと・常滑とは?

「急須のふるさと」とは、常滑焼の愛知県常滑市を指します。常滑焼とは、常滑市地域を中心にその周辺の知多半島でつくられる陶芸品のこと。古くからやきものの産地として知られ、中でも急須の生産が盛んなため「急須のふるさと」の異名を持ちます。

常滑の急須の代名詞といえるのが「朱泥急須」。朱泥急須とは、その字の通り、朱色をしている泥でつくった急須です。常滑地域で古くから採れる鉄分を多く含んだ土を使用しています。

やきものの産地「日本六古窯」のひとつ

常滑のやきもの散歩道

常滑のやきもの散歩道。小高い丘にあり、常滑焼の歴史を知れる美しい道は観光地として人気。

愛知県常滑市は、伊勢湾にほど近い、知多半島に位置します。潮風が感じられる高台にある常滑市は、古くからやきものの産地として知られており「日本六古窯(にほんろっこよう)」に数えられます。

日本六古窯とは、古来の陶磁器窯のうち、中世から現在まで生産が続く代表的な陶芸産地の総称で、常滑焼をはじめ、瀬戸焼、越前焼、信楽焼、丹波焼、備前焼という6つの窯のことをいいます。

常滑焼の歴史は平安時代末期にまでさかのぼります。鎌倉時代にはさまざまなやきものが生産されるようになり、江戸時代には常滑焼の代名詞ともいえる、朱泥製品が誕生しました。中でも急須を多く生産し、今では「急須のふるさと」として名高い地域です。

23名だけ!常滑焼「伝統工芸士」

土平栄一さん

一心陶房 土平栄一さん●1969年愛知県常滑市に生まれる。91年アイオワ州立大学留学、92年水産大学校卒業、94年宮崎大学大学院農学研究家卒業、96年有田窯業大学校卒業。96年(有)一心陶房に入社。2009年経済産業大臣指定 常滑焼の伝統工芸士に認定される。

常滑の地で、急須をつくる陶芸家で伝統工芸士の工房を訪ねました。一心陶房の土平栄一さんです。土平さんは常滑生まれの常滑育ち。各地で陶芸の勉強をしたのち地元へ帰郷、祖父と父が始めた一心陶房を継ぐ3代目です。

2009年には、常滑焼の「伝統工芸士」に認定されました。伝統工芸士とは、各地域の伝統的工芸品において、高い技術・技法を持ち、試験に合格した人にのみ認定される資格です。こうした技術者が手づくりした製品のみが「伝統工芸品」として認定されるのです。現在、常滑焼に携わる伝統工芸士はわずか23名だけです。

「急須は、注ぎ口や取っ手などをつけるのに、全体のバランスを考えてつくる必要があります。そのため高い技術が求められる難しいやきものなのです」と土平さんは言います。

土平さんは陶芸家としての技術をあげるためにも急須づくりに挑み、自身の作風を模索しながら、今では急須の専門陶芸家にまでなりました。

2.どちらも手作業!急須の2つの製造方法

急須の製造には2つの方法あります。1つは「ろくろ」、もうひとつは「鋳込み」。詳しく説明します。

土平さんの工房に置かれた手づくりの急須の写真

土平さんの工房に置かれた手づくりの急須。これを見本に新たな急須を制作している。

急須のパーツを「ろくろ」を使って「手づくり」

急須は、胴体、注ぎ口、取っ手、蓋とパーツごとにつくり、それをつなぎ合わせるのが基本的なつくり方です。それぞれのパーツを、ろくろを使って「手づくり」するのが、一つ目の製造方法です。

「ろくろを回して製造するので、一つとして同じものがないので、非常に高価になります。伝統工芸品に認定されている製品です。 すべて手づくりの急須は、挑戦的なデザインや形を試すことも多いです」

同じ形、サイズを1度につくる「鋳込み」

鋳込みの作業の写真

鋳込みの型から外したパーツを一つずつ、繋ぎ目が自然になるようにつなげていく

もう一つが「鋳込み」と呼ばれる方法です。鋳込みは、石膏でできた型に泥漿(でいしょう)を流し込んで固めて成形するやり方です。均一なサイズの急須を同時に大量に制作することが可能なため、比較的安価で、より多くの人に急須を楽しんでもらえます。

土平さんはつくりたい急須のデザインや形を考えると、自ら石膏を削って型のサンプルをつくります。それを元に鋳込み用の型を製造します。

できた型に泥漿を流し込み、成形に必要な厚みになるまで約1時間ほど乾燥させます。その後、余分な泥漿を取り除き、さらに約1時間ほど乾燥させて型から外します。この作業を胴体、注ぎ口、取っ手、蓋のパーツで行ないます。

鋳込みの型と乾燥中の急須の写真

左/それぞれのパーツをかたどる型。一つの型で約100回ほど使うことができる。右/急須のパーツをくっつけて乾かしている。同じサイズ・形の急須をつくれるのが「鋳込み」の利点。

鋳込みは大量生産に向いた製法ではありますが、あくまで形をつくる工程のみ。その後は各パーツを一つひとつ手作業でつなげていきます。

3.よい急須の条件は「注ぎ口」にある!

お茶をおいしく、手軽に淹れられる急須の注ぎ口には、職人の技が隠されています。

還元焼でできた急須の写真

土平さんのつくる急須は還元(かんげん)焼と呼ばれる方法で焼いている。そうすることで土の中にある鉄分が表に出てくるので、内側に釉薬をかけないのは、自然な鉄分でよりお茶をおいしくするための理由もあるという。

お茶切れのための工夫

急須づくりの途中で、土平さんは胴体につけた注ぎ口を入念に確認し、注ぎ口の内側の部分を筆で数回撫でていました。理由を聞くと、「注いだときにお茶切れがよくなるんです」と教えてくれました。

土平さんがつくる急須には、お茶をおいしく淹れるための技が多く隠されています。例えば、注ぎ口の裏側と急須の内側には、やきものの地色が出ています。急須づくりはパーツをつなげたあとは乾燥させ、素焼き、釉薬をかけて本焼きと続きます。全体に均一に釉薬をかけたのち、あえて口の裏側を拭き取るというのです。

「口に釉薬をかけないことで、お茶が伝い漏れしにくくなります。急須の内側にもかけないのは、焼き締まった土の細かい凸凹が、お茶の渋みを適度に吸着してくれるので、お茶の旨みをより味わえるようになるからです」

急須で淹れたお茶がおいしいのは、こうした陶芸家の技があるからなのかもしれません。

職人自らが試す急須のよさ

庭でお茶をする土平さん

土平さんは1日2回、作業の合間の朝10時と午後3時にお茶の時間を設けています。天気のよい日は、工房から出て庭でお茶をするのが楽しみだと言います。庭に出したテーブルに並べられた茶器は、すべて土平さん自らがつくった作品です。

直火にかけられる耐熱土でつくった特別な急須でお湯を沸かし、鋳込みの方法で製造した湯冷ましで冷まします。ろくろで手づくりした陶器の茶筒には、煎茶の茶葉が詰めてありました。鋳込みでつくった急須でじっくりとお茶を抽出したら、おいしいお茶のできあがりです。

オリジナルのマグカップにお茶を注ぐ際には思わず「よし、お茶切れがいい!」と笑みがこぼれます。土平さんにとって、お茶時間は休息と同時に作品を試すための時間でもあります。急須をはじめとする茶器はあくまで日用品。実際に使用して使い勝手がよくないと意味がないと言います。

土平さんがつくった茶器の写真

お茶時間を楽しむ茶器はすべて土平さんがつくった品。ガスバーナーにセットしているのは耐熱土でつくった特別な急須。

4.まとめ

常滑焼の伝統工芸士が手作業でつくる急須には、お茶をおいしく淹れるための工夫が隠されていました。使い勝手のよい急須をお探しの方は、常滑焼の急須でお茶を淹れて、毎日のお茶時間を楽しんでみてはいかがでしょうか。

     
  

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