日本料理人に聞く、自宅でティーペアリングを楽しむコツとおすすめの組合せ
2023.02.01
お茶とお菓子のよい組合せはよく聞きますが、お茶と料理のよい組合せって案外分からない人も多いのでは? 興味を持った編集部が協力をお願いしたのは、「京料理 鳥米」の6代目当主の田中良典さん。大のお茶好きだという日本料理のプロに、お茶と料理の組合せを楽しむティーペアリングと、家庭でも楽しめるポイントを教えていただきました。
目次
教えてくれる人
「京料理 鳥米」6代目当主 宇治茶ムリエ 田中良典さん
「お友達を呼んで“お茶ペアリングの会”などを開くのもいいですよね。カジュアルに楽しみながら、お茶と料理のペアリングの世界を広げていってみてください」と田中さん。
1.好きなお茶に、好きな料理を。それだけでも素敵なティーペアリング!
ティーペアリングとは、お料理とお茶をあわせて楽しむことをいいます。たとえばフランス料理ではワインを、和食では日本酒を、お料理にあわせて出したりしますが、そのお酒がお茶になるわけです。ティーペアリングは、お酒の飲めない方や飲めないシーンでも楽しめるのも魅力です。
うちの店の、あるコース料理では、先付けでは玉露を一煎、二煎と味わっていただき、食中は玄米茶、向付(お造りなど)は、魚の生臭さをさっぱりと消してくれる煎茶、焼きものなどはほうじ茶、そして最後のご飯には、煎茶と昆布だしを合わせた旨みが濃厚なお茶をご用意するなど、最初から最後までお茶との相性を多彩に楽しんでいただくこともあります。
2.自宅でティーペアリングを楽しむポイント
ではご家庭でどんなふうにお茶と料理の組合せを楽しむかについてですが、まずはお茶をよく飲んでご自分の本当に好きなお茶の味を見つけてみてほしいと思います。
できれば、茶葉は煎茶、ほうじ茶、玄米茶の3種を用意して、その日、その時間帯でお好みのお茶を飲み比べてみてください。そうすると、自分の一番好きなお茶が見つかるはずです。
次に、好きなお茶に、好きな料理をあわせてみてください。好きなもの同士ですから、きっとベストな相性になるはずです。
その後は、濃い、薄いと濃度を変えたり、温かい、冷たいと温度を変えたり、さらに相性を試してみてほしいと思います。これが組合せの基本となります。
これからその応用として、お茶ごとのペアリングのコツをご紹介します。お茶は温かくても、水出しなど冷たいものでもどちらでも大丈夫です。ポイントをおさえて、おいしいお茶と料理の相性を探ってみてくださいね。
3.日本料理のプロが教える、お茶と料理のマリアージュ
ここからは、宇治茶ムリエ田中さんおすすめのお茶と料理のペアリングをご紹介します。
若蒸し煎茶と菊花和え
~爽やかなお茶には、素材の味を生かした料理を~
若蒸し煎茶は、なんといっても爽やかな香りとすっきりとしたあと口が魅力です。
菊花和えは蒸し鶏と焼き松茸、菊菜、菊花をあわせて、八方だし(だしと醤油、みりんをあわせたもの)であっさりシンプルに仕上げた一品です。繊細な若蒸し煎茶は、料理の味を損なうことがなく、素材の味をストレートに楽しむ和え物などがよく合うと思います。
ほかにオリーブオイルと塩だけのシンプルなグリーンサラダや、ほうれん草のおひたし、万願寺とうがらしをこんがり焼いて醤油だしに浸したものなどもよく合いますよ。
素材本来の持ち味を生かした料理には、爽やかな飲み口の若蒸し煎茶がおすすめです。うちの店ではお茶を出した茶がらにポン酢を加えて「茶食(ちゃしょく)」としてお客様にお出しすることがありますが、茶葉に残った滋養ごといただけるので、ぜひ試してみてください。
深蒸し煎茶と蓮蒸し
~濃い風味のお茶には、しっかりとした味の料理を~
深蒸し煎茶は、青味が強く、濃い風味が特徴。このお茶にはほっこり蒸しあげた蓮蒸し(はすむし)をあわせてみました。
一般的に蓮蒸しにはうなぎを使うことが多いのですが、今回は鶏の照り焼きを使っています。濃い醤油だれを鶏肉に染み込ませて、香ばしく焼いたものに蓮根のすり下ろしを丸めてのせて、紅芯大根の角切りを添えました。
ぷるんとした蓮蒸し、ほろりとやわらかく仕上げた鶏の照り焼き、生の紅芯大根のさくっとした歯触りなど、それぞれの食感の変化がアクセントになって食べ飽きません。
深蒸し煎茶の青味は、しっかりとした存在感を示しながらも、蓮の繊細な香りや鶏の旨みを邪魔せず、それぞれの風味を引き立ててくれます。
ほかには魚の煮付けや肉じゃが、目玉焼きなど、しっかりとした味わいの料理に深蒸し煎茶はとてもよく合います。
ほうじ茶と手羽先幽庵焼き
~芳しいお茶には、こんがり香ばしい料理を~
ほうじ茶は、最初の芳香(ファーストインパクト)がとても強いお茶です。このお茶は食べ物に本来含まれる油分と穏やかにあわさって、余韻を長く楽しめる特徴があります。
お料理は手羽先を淡口醤油やみりんなどの下地に漬け込んで、炭火にほうじ茶を加えて、さらに香ばしさをまとわせました。そこに焼き松茸と酢取りみょうがを添えています。
ほうじ茶は茶葉を焙じることで、お茶自体がメイラード反応といわれる独特の芳香を持つようになります。手羽先をこんがり焼くことで生まれるメイラード反応と融合して、さらなる深い旨みが生まれます。
また手羽先の油分をすっきり洗い流す効果があるので、濃厚な料理を最後までおいしくいただけます。これからの季節なら脂の乗ったサンマの塩焼きや戻りかつおのタタキなどもよく合うと思います。
玄米茶と大学芋
~香ばしいお茶には、こってりとした料理を~
玄米茶は、炒った玄米のナチュラルな香ばしさが特徴です。しっかりとした旨みがあって、実は油物などこってりした料理の中和力がすごくあるんです。
大学芋は、うちの店ではスイーツというよりはコースの中の一品としてときどきお出ししています。乱切りにしたサツマイモに片栗粉をまぶして、さっくり揚げます。
別鍋でバターを溶かして、たっぷりのレーズンを混ぜておきます。揚げたてのサツマイモに蜜を絡めて、さらにバターとレーズンを絡めます。
濃厚でいて、レーズンの甘酸っぱい果実味があって、甘さもあっさりとした仕上がりです。いわゆる揚げ物らしい香ばしさに甘(あま)・旨(うま)な玄米茶がよくフィットして、口の中をバランスよく中和させてくれます。
揚げ物やクリーミーな味わいとも相性がよいので天ぷらやクリームシチュー、グラタンなどにもよく合いますよ。
京料理 鳥米
【住所】京都市西京区嵐山朝月町66
【電話】075-872-7711
【営業時間】11:00〜15:00、17:00〜22:00(L.O.21:00)
【定休日】水曜ほか不定休
【HP】https://www.toriyone.com
※ランチ、ディナー懐石料理11,000円〜
4.まとめ
日本料理のプロが提案するティーペアリングの楽しみ方、いかがだったでしょうか。急須であたたかいお茶を淹れて、料理とともにいただけば、身も心もほっこり、幸せな気分に浸れます。みなさまもぜひご自宅で試してみてくださいね。