私の新茶の楽しみ方−京都で活躍するガラス作家、音楽家、茶人に聞いた!
2026.05.01

待ちに待った新茶のシーズンがやってきました。摘みたてならではの若々しい香りと、みずみずしく澄んだ味わいは、この時季だけの特別なものです。ガラス作家や音楽家、茶人といった、京都で活躍する感性豊かな3名に、新茶ならではの楽しみ方を伺いました。
1.新茶ってどんなもの?

「新茶」とは、その年の春に芽吹いた新芽を摘んでつくられる、初摘みのお茶のこと。やわらかな若葉ならではの、みずみずしい口あたりと、ほのかな甘みが魅力です。湯呑から立ちのぼる青々とした清々しい香りは、心をすっと落ち着かせてくれます。一年に一度、この季節にだけ味わえる、自然の恵みが感じられるお茶です。
2.美しい水色にうっとり!
ガラス作家 小林希さん

お茶が大好きという希さん。「新茶の季節はやはり日本茶がいいですね。毎年必ずいただいています」
Profile
こばやし のぞみ●2001年、京都市伏見区の醍醐寺近くに夫の裕之さんとともに吹きガラスをメインとしたアトリエを設立。定期的に個展やグループ展などに出品。個展などの情報はインスタグラムで常時更新中。
【Instagram】@kobayashi_glass_works
光を透過するガラスの茶器ならではの、新茶の美しい世界を楽しむ
京都市内の世界遺産の一つ、醍醐寺にほど近い静かな住宅地に、小林希さんと夫の裕之さんのガラスアトリエがあります。25年前にこの地でアトリエをスタートし、現在は暮らしに寄り添うガラスのうつわを夫婦共同で製作しています。
「アトリエは一年中温度が高く、作業も集中力を要するので、毎日、こまめにお茶を淹れて休憩します。飽きがこないように、ほうじ茶、煎茶、中国茶など種類を変えて、夫婦で楽しんでいます」
5〜6年前から、中国茶のお点前の稽古を続けている希さん。ここ数年は茶器づくりに力を入れています。「特に新茶は、ガラスの茶器を使って淹れる楽しさがあります」と希さんは話します。
まず、蓋付きの白い急須で新茶の葉を少し蒸らして、お湯をゆっくりと注ぎます。注ぎ用のガラス器にお茶を移して、小さな茶碗に等分に注ぎます。優美な手つきで希さんが茶碗を一つ、取り上げてすりガラスの窓にかざします。
「見てください…! こうして光に透かしてみるとお茶の水色にやわらかな光が透過して、新茶ならではの産毛という茶葉の繊維がきらきら輝いて見えることがあるんですよ」
なんと美しいこと…! お茶を口に含めば、新茶の香りが立ちのぼり、薄く繊細なガラスの口当たりが日本茶の風味を一層クリアに引き出します。清々しい味わいが薫風のように吹き抜けていきます。
「新茶はお茶の生命力をそのままいただいて、心身をすっきり調えてくれる感じがして大好きです。これからは夏場に向けて高温で厳しい仕事環境になるので、今のうちに新茶をたっぷりいただいて、お茶のカテキンやビタミンCをしっかりチャージしておきたいですね」
静かな午後のアトリエで、ガラス茶器でいただくという新茶の素敵な楽しみ方に出合うことができました。

左/うつわの口元をなめらかに削って、口当たりがよいように調整していく希さん。右/小さな茶碗は左から「雲」、「茶の花」、「六角」、「茶の実」と名付けられ、どれも華奢で優雅なデザインのものばかり。

光の透過で水色がきらきらと輝く。ガラス器だからこその類まれな世界にしばしうっとり。
3.爽やかで若い香りが魅力!
音楽家 石田一夫さん

サロンの一角でお茶を飲みながら一息つく石田さん。傍らの楽器は愛用のウッドベース(コントラバス)。
Profile
いしだ かずお●1964年、兵庫県生まれ。大学卒業後、京都で不動産業を営む傍ら、音楽活動を続ける。2022年、京都・北大路に音楽文化交流施設としてアイガットサロンを設立。アットホームなコンサートを数多く手がける。
新茶と若い演奏家には、その時期そのときだけの「華」がある
京都・北大路で音楽サロン「アイガットサロン」を運営し、夜はジャズ・べーシストとしてライブもする石田一夫さん。モザイクの木の床にぬくもりが感じられる音楽サロンには弦楽器やピアノが置かれ、石田さんが企画するコンサートが頻繁に開かれています。
「もともとは、ここを京都の古楽器演奏のメッカにしたいと思って2022年に開設しました。サロンの名は、古楽器に使われる羊の腸製のガット弦に由来します」と説明する石田さん。
若いときはロックもジャズも好きでしたが、音楽の本質はなにかをずっと追究して行きついたのが古楽であり古楽器でした。古楽器は音色もやさしく細胞を共振させるような波動が感じられ、デジタル音楽全盛の現代だからこそ見直したい魅力があるといいます。
石田さんは、古楽器演奏家や若い音楽家に演奏の機会を提供するとともに、サロン開設2年目以降は古楽やクラシック以外にもタンゴやジャズ、ボサノバなど、ジャンルを超えたコンサートを行なっています。
このサロンで打合せなどの際、石田さんはよく自らお茶を淹れます。
「急須の茶葉にお湯を注ぎ、お茶を飲む時間をともにすると話もはずんで、思わぬ出会いにつながったりするんです」
そんな石田さん、普段は番茶やほうじ茶を飲むことが多いですが、大好きな和菓子を食べるときは煎茶と決めています。そして5月の新茶の時期は「柏餅とともに新茶の爽やかな香りを楽しむのは最高ですね」
石田さんによると、新茶には若い演奏家のデビュー時のような「その時期、そのときだけの華がある」といいます。
「10代でデビューする天才バイオリニストなどはその時期にしかない瑞々しさがあり、熟練の演奏家にはない若さゆえの魅力があります。新茶も同じで、成熟したお茶とは違う爽やかな若い香りに、その時期にしかない魅力を感じますね」
芸術や味覚への感度が鋭い石田さんならではの、新茶の魅力を語っていただきました。

左/お客さんと打合せの際は、急須のお茶でもてなしながら話し込むこともある。右/古楽器の「ヴィオラ・ダ・ガンバ」はやさしいガット弦の響き。チェロに似ているがフレットがあり、膝に抱えて弾く。

定員26名の小さなサロンは間近な距離で生演奏を聴ける。年間30以上のコンサートが企画運営される。
4.軽やかなお菓子と合う!
茶人 辻󠄀真奈美さん

「館内のお呈茶席『祥雲軒(しょううんけん)』では季節の道具の取り合せも楽しめます」と辻󠄀さん。後ろの掛軸は、京都画壇の流れをくむ今尾景之の作。
Profile
つじ まなみ●京菓子資料館勤務。
【HP】https://kyogashi.co.jp/shiryoukan
フレッシュで特別な存在の新茶で、気持ちも新たに。
京都御所や足利将軍家ゆかりの相国寺(しょうこくじ)など、歴史の息吹感じる烏丸今出川。「菓心求道(かしんきゅうどう)」を理念に掲げる老舗京菓子司・俵屋吉富(たわらやよしとみ)が開設した京菓子資料館は、和菓子文化の普及活動を行なう施設です。
ここで企画展示や体験イベントを通し和菓子の魅力を発信しているのが、資料館担当で茶人の辻󠄀真奈美さんです。資料館の御茶席体験ではお点前をしてお抹茶を提供することも。
「上生菓子やあんこの割合の多いお菓子には、味の濃いお抹茶ですね」と、組合せの研究にも余念がありません。
そんな辻󠄀さんですが、自宅でリラックスするときのお供は、煎茶です。子どもの頃から、食後は煎茶で一息つくのが習慣でした。とりわけ新茶には格別の思いがあります。
「福岡に住むお茶好きの母から、毎年新茶シーズンにお茶が届きます。それが八十八夜の頃、5月生まれの私の誕生日と一緒なのです。ひとつ歳を重ねるとき、フレッシュな新茶で気持ちも新たになる。新茶は私にとって節目になる特別な存在です」
実は、大学で生物工学を学び、理系の企業で研究者として働いていた辻󠄀さん。実験に研究にと忙しい日々を過ごす中、母親のすすめで茶道を始め、静謐で趣ある世界観に魅了されます。
仕事をやめて裏千家学園茶道専門学校で本格的に茶道を学びました。研究者に戻ることも考えましたが、歴史情緒あふれる京都への思いは断ちがたく、現在に至ります。そんな辻󠄀さんに、新茶の楽しみ方をたずねました。
「新茶は新芽の若々しい香りが魅力です。存分に楽しめるように、うつわやお菓子はすっきりと軽やかなものがいいですね。お餅を使ったお菓子は甘すぎず見た目も素朴で、繊細な新茶にぴったりです」
清々しい柏の葉にくるまれた歯切れのよい柏餅や、もちもちの求肥(ぎゅうひ)を焼皮で巻いた調布(ちょうふ)、軽やかな吹き寄せ煎餅など、5月のお菓子は新茶と絶妙に合うと教えてくれました。
京都の文化を彩るお茶とお菓子。風薫る5月に、自分好みの組合せを見つけてみてはいかがでしょう。

左/資料館にて、展示の解説をする辻󠄀さん。右/お茶好きの母親から取り寄せた萬古焼の急須は、くつろぐ狸の取っ手がユーモラス。新茶の黄緑色が映える白い器は瀬戸焼、茶托は屋久杉。

俵屋吉富の柏餅は、つぶつぶの道明寺粉でつくられた餅が特徴。蛤のように柏の葉に収まっている。鯉のぼりを模した調布は、子どもの日の特別仕様。軽やかな吹き寄せ煎餅も新茶とよく合う。
5.まとめ
春の終わり頃から初夏にかけて摘まれる新芽を使ってつくられるフレッシュなお茶「新茶」。色、香り、味わいともに、一年に一度、この季節だけの特別なものです。京都で活躍する3名の三者三様の楽しみ方を参考に、今このときだけの新茶を心ゆくまで存分に楽しんでみてください。
