【なぜ?】京都の夏に欠かせない鱧!京料理人が歴史と調理方法を解説
2024.06.01
夏に旬を迎える鱧は、「祇園祭は鱧祭」と言われるほど京都の夏の風物詩として知られています。そもそもなぜ京都の夏に鱧は欠かせないのでしょうか? その歴史と「骨切り」という独特の調理法について、現代の名工・京料理人の松下秀夫先生に解説していただきます。
目次
京料理人・松下秀夫先生
京都の老舗懐石料理店「ちもと」にて勤務後、学校法人大和学園において京料理人教師として活躍。令和3年度「京都府の現代の名工」に選ばれる。
1.7月の京都に欠かせない風物詩「鱧」とは?
鱧は暑さが本番を迎える7月、京都の風物詩にもなっています。では鱧とはどんな魚なのでしょうか? 鱧について解説します。
❶「鱧」ってどんな魚?
鱧【はも】
鱧は、ウナギ目ハモ科の海水魚です。沿岸部の岩場や砂底に棲む大型肉食魚で、全長は約2メートルに及びます。ウナギに似た細長い体形ですが、口が大きく、上下のアゴに鋭い歯が並んでいます。この鋭い歯を持っているため、「歯持ち」から鱧の名前になったとする説や、人を噛むほど凶暴なことから、「食(は)む」が転じたとする説などがあります。
❷祇園祭は鱧祭? その歴史とは
鱧は梅雨の時期から7月末頃までが旬となります。京都の街が祇園祭で賑わう時季が一番おいしいことから、祇園祭は別名「鱧祭」と呼ばれることも。暑さに負けないように、体力をつけるために鱧の脂をとったといわれています。また7月上旬には、兵庫県の淡路島より、特産の鱧を八坂神社に奉納する「はも道中」が行なわれます。
2.経験と集中力を要する職人の技「骨切り」
多くの魚は3枚におろして大きい骨を取り除き、小骨は骨抜きで抜くのが一般的です。しかし鱧は小骨が多いため、すべて取り除くのは難しく、「骨切り」という調理法で小骨を断ち切って用います。
「骨切りは、薄い皮を残して骨と身だけを切り、ミリ単位で細かく包丁を入れなければいけないので、経験と集中力がものを言う調理法ですね」と松下先生。
鱧の骨切りは、一寸(約3センチ)に24以上の切れ目を入れていきます。熟練の京料理人の切り方は、上から包丁を入れ、その後、刃を右へ寝かせて斜めに切り込むので、身が立ち、厚みが出ます。集中力が必要な緊張の作業です。
「料理人として駆け出しの頃は、鱧を捌くのが憧れでした。今でも骨切りをしようとすると、私のことをじっと見つめる大将の厳しい目つきを思い出し、思わず緊張してしまいます」
早速骨切りに取り掛かる松下先生。ぐっとお腹に力を入れ、繊細な力加減で包丁を入れていきます。切れ目が波のように連なっていく様子は圧巻です。
3.鱧を使った料理1:身の食感が心地よい鱧の利休棒寿司
1品目は、鱧を焼いてつくる棒寿司です。松下先生によると、鱧は焼くと皮は歯応えよく、身はサクサクした食感になるそうです。
まず、鱧に串を打ち、両面振り塩をして素焼きにします。中央がゆっくりとふくらみ、旨みが凝縮されていきます。火が通ったら、軽く切って香りを立たせた黒炒りごまを、鱧の身側に振ります。また寿司飯には抹茶を混ぜ、鱧のサイズにまとめて、巻きすで鱧とともに巻いていきます。それをひと口大に切って葉蘭に盛り付け、さらし葱と梅肉を添えて完成。抹茶と黒ごまの香りが香ばしい1品となりました。
4.鱧を使った料理2:さっぱり爽やかな鱧の梅肉和え
次に、鱧料理の湯引きに移ります。鱧は湯引きにすると、ふんわりとやわらかく、上品な味わいになるそうです。
鱧をひと口大に切り、熱湯にさっとくぐらせると、まるで花びらがほころぶように、骨切りをした切れ込みがゆっくりと広がっていきます。
「刻み梅干しを載せて、さっぱりとさせます」
さらに、若布や浜防風を添えて三杯酢を回しかけ、器に盛ります。
5.鱧料理に添えるひと皿:旬の食材を使った蛍烏賊と蕗の酢味噌がけ
3品目は、蛍烏賊と蕗に酢味噌をかけた1品です。蛍烏賊は目や口骨を取り除き、蕗とともに甘酢に浸けて下味をつけ、白味噌に甘酢、辛子を混ぜた酢味噌を添えます。紅蓼と、九州産の淡水のり「水前寺海苔」を三角に切り、兜に見立てて添えました。
「酢味噌の料理を併せることで、鱧料理のさっぱりした味が引き立ち、おいしいですね」と松下先生。
繊細な味わいの鱧を、ほのかな香りやさっぱりとした味わいで楽しめる食膳が完成しました。
6.まとめ
梅雨の時期から7月末に旬を迎える鱧は、暑い夏の京都に欠かせない風物詩となっています。祇園祭の頃になると、京料理に食材としてさまざまに用いられることから、「祇園祭は鱧祭」と呼ばれることもあります。
鱧は「骨切り」という京料理人の熟練の技で小骨が切られると、身の食感が心地よい利休棒寿司やさっぱり爽やかな梅肉和えに姿を変えました。
夏の季節を彩る旬の味覚を楽しんでみてはいかがでしょう。