あんこライター激推しの春のお菓子3選|京都の行事と楽しむ和菓子
2024.02.01
あんこ菓子のことならこの人に聞け!関西を中心にTV出演・執筆など“あんこライター”として活躍するかがたにのりこさんに、春に食べたい和菓子のエッセイを書き下ろしてもらいました。季節のお菓子を用意して、お茶時間をお楽しみください。
目次
1.<3月>京都の桃の節句に欠かせない「ひちぎり」
ひちぎりは、京都でひな祭りの時期に食べられる上生菓子です。漢字で書くと「引千切」と表記します。
一風変わった名称と、どこかかわいらしい見た目が印象的な和菓子について、かがたにさんにお聞きしました。
■貝のような形をしているひちぎりってどんなもの?
金沢生まれなもので、子どもの頃はひな祭りのお菓子といえば「金花糖(きんかとう)」と呼ばれる砂糖菓子が常でした。ほぼ砂糖の塊なので、日持ちは抜群。鯛や野菜を模った色とりどりの金花糖が人形と共に一ヵ月近く飾られているのを眺めながら、まだ食べちゃだめ? と、お雛様たちに哀願の眼差しを送っていたのを覚えています。
京都の桃の節句には「引千切」というお菓子が欠かせません。もとは平安時代、宮中で子どもの幸せを祈願する儀式の祝儀「戴餅(いただきもち)」に由来します。くぼみのついた土台部分の端がピョコンと伸びた独特の形をしているのは、昔、宮中の人手が足りないときに餅を丸める手間を惜しんで、引きちぎった名残なのだとか。くぼみの上には丸めたあんこや、きんとんがこんもりとのせられています。
■実はお店によってさまざまなんです!
戴餅は白いお餅を引きちぎって、くぼみの上にあんこをのせただけだったそうですが、ひちぎりはどのお店にも2種類ないし3種類の色違い、味違いがあることがほとんどです。春色のパステルカラーがどれも愛らしく、一つに絞るのはとても悩ましい…!なので、ここは一人一つとはいわずに、男雛と女雛のように対で揃えてしまいましょう、というのは、甘党の巧妙な言い訳です。3種類の場合は、三人官女ということにして。なお、リアルに3人の女子が集まると、桃ではなくおしゃべりの花が咲きますゆえ、たっぷりとお茶を用意するのもお忘れなく。
2.<4月>「花より団子」の団子といえばこれ!
誰もが目にしたことがある、ピンク、白、緑の3色団子。通称「花見団子」は、安土桃山時代に豊臣秀吉が京都で春の大茶会を開いた際、考案したとも言われています。多くの和菓子は、見た目や味わいに地域差があるのに対し、花見団子は変わりません。和菓子に詳しいかがたにさんに、自身の花見団子のエピソード、花見団子にまつわる逸話をお聞きしました。
■全国共通の和菓子は実は珍しい!
人に見られようと、見られまいと、春になれば桜は毎年華やかに咲き、そして美しく散っていきます。ここ数年のお花見自粛で、気合を入れてお花見弁当を作ることはなくなったとはいえ、私の「花より団子精神」だけは今年も満開です。
お花見のおともには、やはり花見団子。たとえば桜餅のように、関東と関西で見た目が大きく異なるお菓子もありますが、花見団子は全国的にピンク・白・みどりを主流に3色仕立てです(なお、秋田県には全体に羊羹がかかった茶色のお花見団子があるそうで、「近いうちに食べる帖」にリストアップしています)。
そして3色のものは上からピンク・白・みどり、との並び順がお約束。この色の由来や並び順については諸説 あって、どれも興味深いのですが、私が最も好きなのは、桜の花の移り変わりを表しているとの説。まずはじめに薄紅色のつぼみが膨らみ、次に白い花を咲かせ、やがて葉桜へと移り変わる姿になぞらえたといわれています。なんと花見団子は「花より団子」どころか「団子にして、花!」だった、とは言い過ぎでしょうか。
■花見団子にまつわるおもしろい逸話
ほかには、春の陽射し、冬の雪、草木が芽吹く夏を表している説なども。なぜ四季を表す四個一串ではないのかというと、「秋がない」すなわち「(食べ)飽きない」「商い(が繁盛する)」とかけているのだとか。商魂の逞しさにクスッと笑えて、食べるだけで元気になれそうです。
3.<5月>透明感があり美しい菓子「琥珀糖」
寒天を煮て溶かし、砂糖と色素を加えてつくる琥珀糖は、宝石のように美しく、近年SNSなどで話題をさらっています。
小さい頃から和菓子に親しんできたかがたにさんの、琥珀糖にまつわる幼い頃のかわいらしいエピソードをお届けします。
■まるで宝石!その美しさの秘密は?
今やすっかりお家大好き人間の私も、幼い頃は外遊びの申し子でした。よく一緒に遊んでいたのが、自転車屋さんの同級生Y君。彼と遊ぶときのお楽しみは、外にいてもおやつの時間になると彼の家に行き、お茶をすること。自転車のタイヤと金属パーツと油の混ざった匂いのする店を奥に進み、薄暗く急な階段を上がりドアを開けると、Y君のお母さんがつくる甘いおやつの香りがいつも迎えてくれました。
ある日用意されていたのは、お手製の美しい「琥珀糖」。当時は和菓子屋さんでしか見たことがありませんでした。子どもの私には、材料もレシピも皆目見当が付かず、「こんな宝石のようなお菓子がつくれるなんて、魔法使いみたい!」と彼のお母さんのことを琥珀糖に負けないくらいキラキラした瞳で見上げたものです。砂糖液を寒天で固め、ていねいに乾かしたこのお菓子は、硬そうな見た目とは裏腹に、外はシャリっと、中はふるりとした食感。果汁などを入れた最近のものとは違って、食紅で色をつけただけ。味の違いはないのですが、一色一色大切に食べたことを覚えています。
■お茶との相性は抜群です!
手づくりの琥珀糖の隣には、グラスに水滴をびっしりとつけた冷たい緑茶が置かれていました。
今でもお店で見かけると、つい手にとってしまう私の定番おやつ。特に初夏になると無性に琥珀糖が恋しくなるのは、懐かしいあの日から、とけない魔法にかけられているからなのかもしれません。
4.まとめ
あんこライター・かがたにのりこさんの季節のお菓子のエッセイ、お楽しみいただけましたか? 京都のひな祭りには欠かせない伝統の上生菓子「ひちぎり」、桜の季節に食べたくなる全国共通の「花見団子」、まるで宝石のように美しい「琥珀糖」……。暦や季節の行事などにのっとってお菓子を用意すれば、お茶の時間がもっと楽しくなります。みなさまもお好みのお茶のおともに、ぜひご賞味ください。