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魅惑の作品を生み出す注目の芸術家の傍には、いつも日本茶があった!

2022.09.01

ときに繊細に、ときに大胆に、美しく。切り絵、日本画、帯アートで、思わず魅入ってしまう作品を生み出す女性芸術家3人のそばには、いつも日本茶がありました。制作の合間に、ひと息つきたいときに……三者三様のお茶との関わり方をお聞きしました。

魅力的な3名の女性芸術家

「作業の合間の1杯のお茶は”滋養ある茶葉のスープ”私のエネルギーのもとになっています」


切り絵作家 望月もちづきめぐみさん

望月めぐみさん

( profile )
1978年神奈川県生まれ。現在は、「あじき路地」(東山区)に工房を構える。東京学芸大学在学中より、切り絵作家として活動を開始。一枚の紙を刻んで生まれる切り絵特有の緊張感のある透過美をいかし、寺院や茶室といった伝統建築における大型のインスタレーション作品なども多く手掛ける。著書に『平安絵巻の素敵な切り絵』(PHP研究所)。
【HP】http://www.mochime.com

『透かし見る雪舟―四季山水図より―』

雪舟の水墨画を切り絵で表現した『透かし見る雪舟―四季山水図より―』。この作品を彫ってみて望月さんは、「雪舟は絵を描くことが本当に好きな人だったんだな」と実感したという。2020年に雪舟ゆかりの「雪舟画室雲谷庵跡」(山口県)で個展を開催、「徳正寺」(京都)でも一日限りの展示が行なわれた(撮影/中野貴広氏)

ときには、全長50mにも及ぶ一枚紙を使った切り絵作品を制作する望月めぐみさん。多くの人を魅了する、なめらかで緻密な、そして生き生きとしたラインは、デザインカッター1本で彫る(紙を刻むことを望月さんは、こう呼びます)のだとか。決して間違いが許されない作業だけに、たいへんな集中力が必要なことは想像に難くありません。そこで望月さんがたどりついたのが、少しずつの”ミールタイム”をはさんで2時間を一区切りとする制作スタイルです。

まずは朝、バナナや豆乳、コーヒーなどで”おめざ”を済ませて2時間、”おひる”の食パン1枚と卵と野菜スープを食べたら2時間、ロールケーキとチョコ2粒といった”甘おやつ”とお茶の後に2時間、柿の種など”塩おやつ”とお茶でひとやすみして2時間、そして作業が終わったらビールとおつまみを少しつまむという具合。驚くことに、この内容は数年来、ほぼ同じだといいます。

湯呑とお菓子

10年以上前、人生で初めて買った作家ものの湯呑。急須は龍の模様に惹かれて、上海の空港で購入。

「食べる、ということの優先順位が低いんです」と笑う望月さんですが、おやつをいただきながら飲むお茶については、特別な思いがあるそう。

「3年ほど前、ニューヨークを訪れました。このときもやっぱり、食事もそこそこに美術館巡りに夢中になってしまって。ホテルに帰り、自分で淹れたお茶が、からだにしみわたるようで、『ああ、お茶は滋養のある茶葉のスープだ』と感じたんです」

それまで当たり前に飲んできたお茶に対する考えが変化したと話します。この日本茶への気付きのように、日々の暮らしで出合ったことや興味が、新たな作品づくりにつながっているのでしょう。

楮(こうぞ)の葉』

右/奈良県吉野の和紙を使用した『楮(こうぞ)の葉』。近年、和紙の魅力に引き込まれた望月さんは、産地を訪れるようになり、原材料の植物の葉の切り絵をつくるシリーズの制作を始めている。左/使うのはデザインカッターと人間の手。長さ数十メートルの作品ともなれば、数週間かけて彫ることもあるという。ちなみに作業時のBGMはロック・ミュージック。

「昔から緑茶派。作業中も傍らに置き、1日に3~4杯は飲みますね」


日本画家 諫山いさやま宝樹たまじゅさん

諫山宝樹さん

( profile )
大阪府生まれ、京都市在住。2003年、京都市立芸術大学日本画専攻卒業、2005年、同大学院保存修復専攻修了。大学院在学中より東映京都撮影所にて時代劇のふすま絵などの制作に携わる。2015年に独立し、寺社への作品奉納、定期的な作品公開、広告媒体への作品提供やライブペインティングなど、幅広く活動している。
【HP】https://tamaju.jimdofree.com

思わず目が離せなくなるような美人画、キャッキャッとはしゃぐ声が聞こえてきそうなかわいい唐子(からこ)たちの絵、さまざまな社寺への奉納画……。諫山宝樹さんが手がけるのは、そればかりではありません。京都市立芸術大学の大学院在学中から「東映京都撮影所」で時代劇のふすま絵などを制作していたという経歴の持ち主で、携わった映像作品は『大奥』『るろうに剣心』『利休にたずねよ』ほか多数。このほか、イラストの受注などにも対応し、活躍の場の広さに驚かされます。

『単袴(ひとえばかま)女御図』

右/NHK連続テレビ小説『スカーレット』で、絵付・日本画指導をしたときの試作品。実際にはほかのものが使用されたので、こちらを見られるのは、むしろ貴重かも! 左/平安時代の夏の部屋着姿の女御(にょうご)を描いた『単袴(ひとえばかま)女御図』。女性の髪を描くときは、一度すった墨が劣化する前にすべて終わらせないといけない、集中力と根気が要求される作業。

そんな諫山さんの仕事場は、ご両親と暮らす自宅の一室。広い作業机や、絵を描く資料であろうたくさんの書籍が詰まった書棚、学生時代の大きな模写作品などが並んでいる様子は、なるほど日本画が生まれる現場らしくありつつ、よい意味でどこかゆったりとしたアットホームな雰囲気が漂います。

「お茶といえば、思い起こせば、うちはいつも母が朝から緑茶を淹れている家でした。験担ぎもあるんでしょうね、子どもの頃は要らないといっても追いかけ回されて(笑)、飲まされていました。で、気付けばもっぱら緑茶派です」と諫山さん。

仕事中は大ぶりのガラスマグにお茶を汲んで手元に置き、1日に3~4杯は飲むといいます。作品と同じスペースにお茶を置くのってご法度では?と尋ねると、「すでに筆洗がありますからね。もう、そこは気をつけるしか」とさらり。かっこいい! 諫山さんにとって絵を描くことは、日常生活の一部のようです。そして、大らかで、繊細、かわいらしい、豊かな作者の人柄が、作品にも表れていると感じます。

大粒のレーズンや芋けんぴ

お茶菓子は、大粒のレーズンや芋けんぴなど、さっとつまめる素朴な物が好みだそう。「かわいいものじゃないけど、そのもののおいしさがありますよ」と諫山さん。

扇面の絵

こちらの唐子たちは扇面の絵。「宮脇賣扇庵 京都本店」にて2021年8月下旬に開催された展示に出品されたもの。

「テーブルを帯で飾れば、華やかなお茶時間になりますよ」


ORIOBI 白幡しらはた磨美まみさん

白幡磨美さん

( profile )
ORIOBI作家。帯の質感や素材の美しさを生かし、アート作品に変身させている。現在は日本の伝統的な美しさを伝えるため、冠婚葬祭向けの記念装飾品《想い帯》制作やワークショップ、作品を基にしたミニチュアアクセサリー創作などの活動を行なう。
【HP】https://www.oriobi.jp【Instagram】@oriobi_oriobi

帯を「折る」

帯にハサミを入れて縫い合せるのではなく、一本の帯を「折る」ことで形をつくり、一つの作品に仕上げている。帯をほどけば、また違う作品に形を変えることも可能なのだとか。

1本の帯をそのまま使って、アート作品に仕立てる「ORIOBI」。白幡磨美さんは、活動を京都で行ない、生活の拠点は静岡に置いており、「どちらも有名なお茶の産地ですね」と笑いますが、普段からお茶をよく飲んでいるのだとか。

「食事の際はもちろん、作品づくりをするときも、たくさんつくって、マグカップに入れて机に置いています。作品づくりの傍らにはいつもお茶が。味が足りないなっていうときは、少し抹茶を足してみたり。自分なりのブレンドを楽しんでいます。お客様がいらしたとき、家族が集まるときには、お気に入りの急須と茶器を使ってお茶を淹れます。日常生活にも、おもてなしにも、いつもお茶が傍らにありますね」

京焼の茶器一式

白幡さんが結婚するときにお母様が持たせてくれた京焼の茶器一式。「色柄が美しく、おもてなしの際にはよく利用しています」。

『くぐり扇』

輪の中を扇がくぐり、繰り出す風と共に新しい何かをもたらしてくれるというイメージで創作された『くぐり扇』という作品。(撮影協力:nol kyoto sanjo)

そんな白幡さんのお茶時間に欠かせないのが、テーブルを華やかに飾る帯を使ったコーディネート。

「帯をテーブルセンターにするのがおすすめです。帯には金糸が織り込まれたものも多く、テーブルの上でキラキラと輝き、とても華やかなティータイムになりますよ。今回、私がテーブルに添えた作品のように立体的に折り重ねれば、フラワーアレンジメントの替わりにもなって、とっても素敵なんです」

また、「この帯はおばあちゃんのもので、こんな思い出があったのと、エピソードを家族や友人と共有する機会にも。帯を装飾品として日常使いすることで、家族や帯の持ち主の想いにふれて、大切に継いでいくことができる点にも喜びを感じています」とも。

家族から受け継いだ帯をタンスに眠らせるのではなく、日常で輝かせてあげてほしいという白幡さんのアイディア。ぜひ、お茶時間に取り入れてみてください。家族の会話がきっと弾むはずです。

「練りきり」のような風合いを出した作品

たくさんの蝶結びを重ね、繊細な上生菓子「練りきり」のような風合いを出した作品。京都の庭ともよく合う。


京都で注目を浴びる3人の女性芸術家の共通点、それはお茶が大好きで、よく飲んでいるということでした。皆さんもリラックスしたいときはもちろん、気分を切り替えたいときなど、急須で丁寧に淹れたお茶を飲んで、健やかな日々をお過ごしください。