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ユニークな美術館の魅力的な人は、どんな飲み物を好んでますか?

2022.07.01

いよいよ夏本番!元気に暑さを乗り切りたいものですね。今回お話を聞いたのは、収蔵品を保管するため冷房が効いている美術館の方たち。うだるように暑い京都で元気に活躍する3人は、夏場の体調を整えるため、水分補給にはどんなものを飲んでいるのでしょうか。そこには意外な共通点がありました!

魅力的な3名

「賑やかな暮らしの真ん中には、いつもお茶がありました」


河井寛次郎記念館 学芸員 さぎ珠江たまえさん

鷺珠江さん

鷺さんの自宅にて。寛次郎の作品がたくさん。「1日の終わりに、録画しておいた番組を見ながら、自分でつくった湯呑でお茶を飲むとホッとします。ほうじ茶や番茶、玄米茶が多いですね」

( profile ) 河井博次・須也子(寛次郎の長女)の三女として京都市に生まれる。河井寛次郎記念館の学芸員として、祖父・寛次郎に関わる展覧会の企画・監修や出版、講演会、資料保存、図録の編集や執筆などに携わる。

陶芸家の河井寛次郎は、大正から昭和にかけて興った民藝運動という芸術活動の中心人物で、多くの仲間と交流しました。

河井寛次郎記念館の学芸員として館の運営に携わっている鷺珠江さんは寛次郎の孫にあたります。鷺さんを含む河井家では、寛次郎亡きあと、住居兼仕事場を記念館として保存・公開しています。

再現された当時の寛次郎の仕事場

記念館に今も残る寛次郎の仕事場。当時の様子を偲ぶことができる空間。

今回は記念館のほど近くにある鷺さんのご自宅にお邪魔し、かつて窯元であり生活の場でもあった当時の様子を語っていただきました。なんとかん次郎の茶碗と抹茶で迎えてくれました。

「お抹茶でのおもてなしは、祖父の郷里である島根の習慣からきているんです。島根の家の水屋や茶箱には必ず抹茶があって、いつでも気軽に点てます。お作法などは気にせず、普段使いで楽しんでいました」

河井家では1日に何組もお客さんが訪れていましたが、その度に抹茶を出し、最後は客同士を紹介し合って一つの輪になることがよくあったといいます。

寛次郎作のお茶碗と抹茶の緑

寛次郎作のお茶碗に、抹茶の緑が映える。「飾っておくのではなく、使ってこそ」まさに用の美。

お客さんのない日でも、3時頃になると家族もお弟子さんも手を休めてお茶の時間。仕事の段取りや作品のことなど、たくさん話をしていました。

「お茶は知らない人同士でも、家族でも会話の大切な潤滑油。昔も今も変わらず、人と人をほどよく近づけてくれますね」と鷺さんは生き生きとした笑顔で語ります。

鷺さんの自宅を出たあと、静かな住宅街に佇む昔ながらの風情の残る記念館へ。

京都の厳しい夏、鷺さんはここでどんなふうに乗り切っているのでしょうか。

「記念館は木造家屋なので、窓を開け放して打ち水をすれば風が通って暑さをしのげるんです。冷たいお茶は口当たりはよいのですが、からだが冷えます。エアコンが入っているところでは夏でもお茶は熱いものをいただいてからだを冷やしすぎないように心がけています」

風通しがよい館内から、強烈な夏の日差しが差す外の通りや窯に向かう出入り口を眺めていると、かつての河井家の賑やかな姿が目に浮かびます。

寛次郎弟子作の急須とむぎ餅

愛用の急須は寛次郎の弟子がつくったもの。お菓子は、寛次郎が好きだった近所の和菓子屋さんのむぎ餅。

河井寛次郎記念館

河井寛次郎記念館

【住所】京都市東山区五条坂鐘鋳町569
【電話】075-561-3585
【開館時間】10:00~17:00(最終入館は16:30)
【休館日】月曜(祝日は開館、翌日休館)
  夏期休館 8/11~8/20頃 冬期休館 12/24~1/7頃

【入館料】大人900円、高・大学生500円、小・中学生300円。詳細は公式ウェブサイトでご確認を。
【HP】http://www.kanjiro.jp

「お茶を淹れる一連の行為そのものが、大切な気分転換の一つです」


京都精華大学国際マンガ研究センター 伊藤いとうゆうさん

伊藤遊さん

自由に飲食ができるグラウンドでほっこりする伊藤さん。「90年代、海外にできていた『マンガ喫茶』はサロンのようで、日本のお茶と駄菓子が置いてある、まさに『茶の間』。ここでファン同士が情報交換したり、話したりしていました」

( profile ) 1974年、愛知県生まれ。京都精華大学国際マンガ研究センター特任准教授。専門は民俗学・マンガ研究。京都国際マンガミュージアムの立ち上げに関わり、同館を中心に、国内外でマンガ展の企画・制作も行なう。

伊藤遊さんは、京都国際マンガミュージアムの研究事業も担う京都精華大学国際マンガ研究センターの特任准教授として、日本マンガ文化の時代背景、海外進出などについて研究しています。伊藤さんは研究の中で、日本茶にまつわる興味深いことに気づいたそう。

「日本マンガの海外進出とともに、日本茶も世界に広がったことに気づきました。海外のマンガファンは『日本茶を飲み、日本のお菓子を食べながらマンガを読む』スタイルをそのままにマンガを楽しもうとしていたんですね。世界に日本のさまざまな事象が広がり、日本のイメージが形成されるプロセスを、研究する中で発見しました」

こだわり感じる湯呑みたち

マンガの研究者ならではのこだわりを感じる湯呑たち。懐かしのキャラクター、左はキン肉マン、右はリカちゃんのお友達・タレントパットちゃん。

コロナ禍では大学の講義すらリモートでしなければいけないようになり、ますます家にいる時間が増えて煮詰まることが多かった伊藤さん。そんな時期を乗り越えられたのも「ティータイム」のおかげとのこと。スイーツ好きが高じて和菓子と一緒にいただく日本茶にも興味を持つようになったとか。

急須と湯呑み

急須は軽くて丈夫な燕三条のステンレス製で、アンティークな雰囲気がお洒落。湯呑は波佐見焼。
あしらわれたイラストはマンガ家・イラストレーター寺田克也氏によるもの。

「実はこう見えてかなりの『スイーツ男子』。最近は『菓心おおすが』の『花椿』という和風チョコがおいしかった。いちご大福も大好きです。今、世間ではフルーツ大福ブームで種類も豊富ですが、ぼくは断然いちご派。あと冷凍の大判焼きは常備食です。レンジでチンした後にトーストして、皮をカリッと仕上げるのがコツですね」

どれも日本茶に合いそうなスイーツばかり。これから本格的な夏が始まります。伊藤さんは夏でも「熱いお茶派」なんだそう。その心は?

「そもそも日本茶は熱い方がおいしいでしょ? 暑いときこそ、むしろちょっと『熱っ!』くらいのお茶を飲んで汗をかくのが爽快です。それに、京都の夏の暑さは尋常ではないので、いくら冷たいお茶を飲んだところで涼しくならないような気がして、あえて熱いお茶を飲むんです(笑)」

自分なりの「お茶の楽しみ方」をお持ちの伊藤さん。今ではお湯を沸かしたところから始まる、お茶を淹れる一連の行為そのものが大切な気分転換の時間になっています。

マンガの壁

京都国際マンガミュージアム所蔵の資料のうち、約5万冊を手に取れる総延長200メートルの書架、通称「マンガの壁」。

京都国際マンガミュージアム

京都国際マンガミュージアム

【住所】京都市中京区烏丸通御池上ル(元龍池小学校)
【電話】075-254-7414
【開館時間】10:30~17:30(最終入館は17:00)
【休館日】毎週火・水曜(休祝日の場合は翌日)、
  年末年始、メンテナンス期間

【入館料】大人 900円、中高生400円、小学生
200円(各種割引あり)詳細は公式ウェブサイトでご確認を。

【HP】https://kyotomm.jp

「夏はひんやり冷たい甘味と熱いお茶の組み合せが好きですね」


細辻伊兵衛美術館 館長 細辻ほそつじ伊兵衞いへえさん

細辻伊兵衛さん

この春オープンした細辻伊兵衛美術館にて。2階には、腰をかけてじっくり作品を観賞できるスペースも設けられている。

( profile ) 創業1615年、手ぬぐいや風呂敷の製造販売を行なう京都の老舗「永楽屋」の14代目当主。創業400年にあたる2015年には、個展「14世・細辻伊兵衞手ぬぐいアート展」を開催するなど幅広く活躍。今年4月に細辻伊兵衛美術館を開館、館長に就任。

江戸初期より綿布商として続く「永楽屋」。国内で織り上げる木綿生地に、京の情景など多彩なデザインが施された手ぬぐいは、多くのファンに愛されています。

14代目当主の細辻伊兵衞さんは、この春、歴代の歩みと手ぬぐいを展示する「細辻伊兵衛美術館」をオープン。江戸から令和まで、当時の流行や暮らしぶりまで思い描くことのできる「市井(しせい)の暮らしに根付いた絵柄」が手ぬぐいアートの面白さ。

手ぬぐいチケット

美術館のロゴがデザインされたロットナンバー入りの手ぬぐいチケット。半券は持ち帰って手ぬぐいとして活用できる画期的な試みが話題に。

自ら館長も務め多忙を極めますが、仕事に向かう前のお茶時間は欠かしません。朝食後に奥様の久美子さんが淹れる煎茶やかりがね茶をゆっくりと味わうのが、長年の習慣だそう。

「コーヒーの後でも必ずいただきますね。淹れ方が絶妙で、抜群においしいので」と微笑みます。それもそのはず、久美子さんは煎茶道の師範。たとえ日常のささやかな場面だとしても、必ず湯温には気を配ります。

「どんな茶葉でも温度管理をすれば、甘くおいしく淹れられます。妻の淹れるお茶は、二煎目も三煎目もおいしく味わえますよ」
新しい美術館で、会社で、ご自宅で、久美子さんの淹れるお茶は、来客時のおもてなしにもなくてはならない存在です。

お茶を淹れる写真

お茶を淹れるのは、煎茶道の師範でもある久美子さんが担当。お母様から譲り受けた茶碗や、陶芸家の友人の作品を湯冷ましに活用するなど、普段のお道具は自由な組み合せで楽しんでいる。季節を問わずよくお茶請けにするのは鍵善良房の干菓子「菊寿糖」。和三盆の上品な甘さが煎茶の味わいをより奥深いものに。

お気に入りの和菓子を味わう憩いの時間にも、必ず煎茶をいただくという細辻さん。季節の上菓子、ようかん、お干菓子……。特に夏場は、ひんやりとした甘味に温かいお茶を合せるのがお好みだとか。

「暑い時期は葛を使った生菓子など、見た目も涼やかなお菓子を楽しみます。それと妻の祖母直伝なのですが、懐中しるこに氷を入れていただくこともありますね。冷たいおしるこに熱いお茶、これが何ともおいしくて」とにっこり。

「我が家は子どもたちもみんな和菓子好き。手前味噌ですが、きっとお煎茶がおいしいからですよね」

「お茶は日常に欠かせない」という細辻さんを日々支えるのは、甘くまろやかな余韻が広がる久美子さんの煎茶。ご家族に豊かなひとときをもたらしています。

語る細井さんと金屏風

14代目当主である細辻さんのブースでは、モノクロ写真をモチーフにした手ぬぐいが金屏風になって並ぶ。「写真が実にかっこよくて。見た瞬間に、手ぬぐいにしたいと思いましたね」

細辻伊兵衛美術館

細辻伊兵衛美術館

【住所】京都市中京区室町通三条上ル役行者町368 1階
【電話】075-256-0077
【営業時間】10:00〜19:00(最終入館は
18:30)

【定休日】会期中無休(展示替え期間は休館)
【入館料】一般1,000円(手ぬぐい込)
【HP】http://hosotsuji-ihee-museum.com


京都で活躍中の3人の共通点、それは熱い夏でも温かいお茶を飲んでいるということでした。温かいお茶は喉を潤すだけでなく、心にも癒しをもたらしてくれます。みなさんもぜひ、熱い夏にこそ温かいお茶を飲んで、健やかな毎日をお過ごしください。